坂野国際特許事務所
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目次
<概要>
<結論>
<解説>
<まとめ・余談>
本サイトは、上記<概要>、 <結論>、 <解説>及び<まとめ・余談>で構成されています。項目をクリックすると当該説明の箇所へジャンプします。時間のない方は、概要、結論、まとめ・余談等を先に読まれると良いかもしれません。
より理解を深めたい方は、解説を参照すると良いかもしれません。更に理解を深めたい方は、実際に判決文を入手して分析をする事をお勧めします。
<概要>
この例は、商標の類似について争われた例です。(平成6年(ネ)第1470号)。本事例では、他に、不正競争防止法や、著作権法についても争われており、ロゴマークの著作物性については、別サイトで解説しております。詳細は、判例のご紹介(判例紹介、著作権)、1)著作物と商標の関係:事例1 平成6年(ネ)第1470号をご参照ください。
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<結論>
対比する商標全体を総合的に観察する全体的観察を前提とする。商標は、商品又は役務の識別標識であって、1個の商標が文字、図形等で組み合わされて構成されていても、全体としては識別標識として一体をなすものだからである。 但し、要部観察を併せて行うこともある。 |
本事例は、周知著名な商標について、不正競争防止法に基づく判断、著作権法に基づく判断、商標法に基づく判断がそれぞれなされています。
練習のために、控訴人標章と被控訴人標章とが、商標として類似するか否か検討してみてください。商標の類比判断については、商標の類似の項をご参照ください。
それでは、具体的に内容を見ていきたいと思います。 ページトップへ
<解説>
まず、本事例では、いくつかの争点がありますが、ここでは、商標の類似に焦点を当てて解説します。事実関係の概要は以下の通りです。すなわち、控訴人の商標は、以下のようです。
控訴人標章(1)
控訴人標章(2)
一方、被控訴人の標章は、以下のとおりです。
被控訴人標章
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結論からすると、判決文によれば、両者は類似しないとしています。具体的に、判決文によれば、
「二 控訴人商標権(一)に基づく請求について
1 控訴人が控訴人商標権(一)を有していること、被控訴人が米の販売の営業について、その営業用施設あるいはチラシ、封筒、名刺又は包装袋など取引先へ交付又は配付するものに被控訴人標章を使用していることは当事者間に争いがない。
2(一) 控訴人商標(一)の構成は控訴人標章(1)の構成と同一であるから、控訴人商標(一)と被控訴人標章との類否の判断は前記一3(二)と同一であって、両者は類似するものとは認められない。
(二) 控訴人は、控訴人商標(一)及び被控訴人標章の要部は前半部「Asa」にある旨主張するが、前記一3(三)に説示したとおり採用できない。
3 よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人商標権(一)に基づく請求は理由がない。」となっています。
ここで、本事例では、不正競争防止法にもとづく請求も争われており、商標の類比判断は、不正競争防止法で議論されていますので、当該個所を探してみます。すると、判決文によれば、
「 3 そこで、被控訴人標章が控訴人標章に類似しているか否かについて検討する。
(一) 控訴人標章は、別紙(一)の(1)、(2)のとおりの構成からなるもので、欧文字の「Asahi」をデザインしたものである。
被控訴人標章は、別紙(二)の(1)ないし(3)のとおりの構成からなるもので、「AsaX」の文字をデザインしたものである。
(二)(1) 控訴人標章と被控訴人標章の外観を対比すると、最初の三文字「Asa」の部分は、各文字の形態、配置がきわめて類似しているものと認められる。
もっとも、被控訴人標章においては各文字の周囲に細い輪郭線が表されているのに対し、控訴人標章(1)にはこのような輪郭線が存しない点で相違するが、文字の周囲に細い輪郭線を表すことはありふれたデザインであって、その印象は格別のものではないから、右相違によって右各文字の類似性を否定することはできない。
しかし、控訴人標章は五文字から、被控訴人標章は四文字からそれぞれ構成されているものであり、控訴人標章の四字目、五字目の「hi」の部分と被控訴人標章の四字目の「X」の部分は、文字が、二文字か一文字か、その前にある「sa」と同じ大きさか、それよりも大きく表されているかという違いがある上、控訴人標章の「hi」の部分は、太い三本の縦方向の平行線とその上下の辺を右上がりの傾斜とした点が目立つのに対し、被控訴人標章の「X」の部分は、左上から右下への太い斜線と、右上から左下への細い斜線の交差が目立ち、その印象は大きく異なるものであって、控訴人標章と被控訴人標章とは、最初の三文字の類似性を考慮しても、その全体の外観において類似するものとは認められない。
(2) 控訴人標章からは「あさひ」の称呼を生じ、これに対し、被控訴人標章からは「あさっくす」の称呼を生じる。
右のとおり、両者の称呼は前半の「あさ」の部分においては共通であるけれども、「あさひ」は三音節、「あさっくす」は五音節(促音を一音節と数えて)からなる短い称呼の中で、後半の「ひ」の部分と「っくす」の部分において異なり、しかも、被控訴人標章の後半の「っくす」の部分は促音を含み強い印象を与えるから、全体としては両者の称呼は異なる印象を与えるものと認められ、したがって、控訴人標章から生ずる称呼と被控訴人標章から生ずる称呼は類似するものとは認められない。
(3) 控訴人標章からは「朝日」、「旭」等の観念を生じるのに対して、被控訴人標章は造語と認められ、特段の観念を生じない。したがって、両者の観念が類似するものとは認められない。
(4) 以上のとおり、控訴人標章と被控訴人標章とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似するものではないから、控訴人標章と被控訴人標章とは類似しているとはいえない。
(三) 控訴人は、請求原因1(三)(1)@、A掲記の理由により、控訴人標章及び被控訴人標章ともに「Asa」、「A」の部分が要部である旨主張する。
しかし、控訴人標章における「h」は文字の高さにおいて一字目の「A」と同一であり、「h」の左側の縦線は太い線によって表されているが(もっとも、他の文字の縦線と比べて特に太いというものではない。)、これらのことが、前半部「Asa」と後半部「hi」とを区切る視覚的効果を有しているとは認め難いこと、控訴人標章(1)の「a」と「h」との間のスペースは、「A」と「s」との間のスペースや「s」と「a」との間のスペースより若干広く、また、控訴人標章(2)の「A」、「s」、「a」の各文字の細い輪郭線は、互いに隣接する部分において重なり合っているのに対し、「a」と「h」の各文字の輪郭線間にはスペースが設けられているけれども、これらのことが、前半部「Asa」の外観を一つの塊として、後半部「hi」の外観と分離して認識させるほどのものとは認められないこと、一般的に標章の語頭部が外観認識上重要な役割を果たす部分であることを認めるべき証拠はなく、控訴人標章についても、その全体が控訴人の営業識別標識として取引者、需要者間に広く認識されているものと推認され、前半部「Asa」が後半部「hi」に比べて特に、取引者、需要者の印象、記憶に強い影響を与えているとは認められないこと、控訴人標章の「A」は他の文字に比較してよりデザイン化されているものと認められるが、そのことによって、控訴人標章が「Asa」と「hi」に分離して認識されるとは認め難いこと、同様に、被控訴人標章においても、その構成からいって、前半部「Asa」が後半部「X」に比べて、特に取引者、需要者の印象、記憶に強い影響を与えるものとは認められないことからして、「Asa」に控訴人標章及び被控訴人標章の要部がある旨の控訴人の主張は採用できない。
また、控訴人標章は、最初の一字目が大きく、二字目から五字目までが小さく表示されており、また、被控訴人標章は、最初の一字目が大きく、二字目、三字目が小さく表示されており、一字目の「A」は他の文字に比較してよりデサイン化されているものと認められるが、前記のとおり、控訴人標章は、その全体が控訴人の営業識別標識として取引者、需要者間に広く認識されているものと推認されるし、被控訴人標章においては、「X」も大きく表されていることからしても、控訴人標章が「A」と「sahi」に、被控訴人標章が「A」と「saX」にそれぞれ分離して認識されるものとは認められず、「A」に控訴人標章及び被控訴人標章の要部がある旨の控訴人の主張は採用できない。
なお、甲第二三号証には、不正競争防止法における表示の類似要件は混同要件にいわば従属する要件にすぎないという観点等から、被控訴人標章は控訴人標章に類似するものと認めるべきであるという趣旨の記載があるが、採用できない。
4 よって、その余の点について判断するまでもなく、不正競争防止法に基づく請求は理由がない。」としています。
解説すると、まず、外観類似については、最初の3文字の類似性を考慮しても、その全体の外観において類似するものとは認められないとしています。具体的には、判決文によれば、「(二)(1) 控訴人標章と被控訴人標章の外観を対比すると、最初の三文字「Asa」の部分は、各文字の形態、配置がきわめて類似しているものと認められる。
もっとも、被控訴人標章においては各文字の周囲に細い輪郭線が表されているのに対し、控訴人標章(1)にはこのような輪郭線が存しない点で相違するが、文字の周囲に細い輪郭線を表すことはありふれたデザインであって、その印象は格別のものではないから、右相違によって右各文字の類似性を否定することはできない。
しかし、控訴人標章は五文字から、被控訴人標章は四文字からそれぞれ構成されているものであり、控訴人標章の四字目、五字目の「hi」の部分と被控訴人標章の四字目の「X」の部分は、文字が、二文字か一文字か、その前にある「sa」と同じ大きさか、それよりも大きく表されているかという違いがある上、控訴人標章の「hi」の部分は、太い三本の縦方向の平行線とその上下の辺を右上がりの傾斜とした点が目立つのに対し、被控訴人標章の「X」の部分は、左上から右下への太い斜線と、右上から左下への細い斜線の交差が目立ち、その印象は大きく異なるものであって、控訴人標章と被控訴人標章とは、最初の三文字の類似性を考慮しても、その全体の外観において類似するものとは認められない。」という部分です。
次に、称呼類似については、類似するものと認められないとしています。理由は、判決文によれば、「(2) 控訴人標章からは「あさひ」の称呼を生じ、これに対し、被控訴人標章からは「あさっくす」の称呼を生じる。
右のとおり、両者の称呼は前半の「あさ」の部分においては共通であるけれども、「あさひ」は三音節、「あさっくす」は五音節(促音を一音節と数えて)からなる短い称呼の中で、後半の「ひ」の部分と「っくす」の部分において異なり、しかも、被控訴人標章の後半の「っくす」の部分は促音を含み強い印象を与えるから、全体としては両者の称呼は異なる印象を与えるものと認められ、したがって、控訴人標章から生ずる称呼と被控訴人標章から生ずる称呼は類似するものとは認められない。」という部分です。
つまり、「あさ」の称呼はおなじでも、「ひ」と「っくす」は異なる(特に「っくす」の部分は、促音(「っ」などのつまる音)を含む強い印象を与える。)印象としています。
観念類似についても、控訴人標章では、「旭」等の観念が生じるが、被控訴人標章では、造語であり、特段の観念が生じないとしています。
また、「Asa」が要部である点については、特に、「Asa」の部分が取引者、需要者の印象、記憶に強い影響を与えているとは認められないとして、原則通り、商標の全体的観察から、両者を非類似としています。
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<まとめ・余談>
控訴人標章は、上記商標のほかに、「A」という商標も有していたのですが、「A」と「AsaX]との対比の結果も、両者は非類似とされています。
「Asa」の部分がもっとデザイン化されていたり、「Asa」と「hi」の部分がもっとはなれており、「Asa」が要部と認められていれば、また違った判決となったと思います。また、「Asa」まで登録しておけば、違った判決となったと思われますが、ここまで、登録しなければならないのでしょうか。経営判断が難しいところです。
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