坂野国際特許事務所
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ホーム>商標(商標に関するご案内)>判例のご紹介(判例紹介)>商4条編|判例のご紹介(判例紹介)>事例1商4条編|判例のご紹介(判例紹介)
目次
<概要>
<結論>
<解説>
<まとめ・余談>
本サイトは、上記<概要>、 <結論>、 <解説>及び<まとめ・余談>で構成されています。項目をクリックすると当該説明の箇所へジャンプします。時間のない方は、概要、結論、まとめ・余談等を先に読まれると良いかもしれません。
より理解を深めたい方は、解説を参照すると良いかもしれません。更に理解を深めたい方は、実際に判決文を入手して分析をする事をお勧めします。
<概要>
この例は、商標法第4条第1項15号違反を理由とする取消決定がされた事件において、当該取消決定を取り消す、すなわち、裁判所で商標登録が認められた例です(平成19年(行ケ)第10383号)。
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<結論>
外国において、一定の知名度を有していたとしても、国内において実際に、商標が相当程度認識され、周知著名性を有していなければ、出所の混同を生じるおそれがある商標に該当しない。 |
例えば、本例でいえば、前審異議申立人側は、商標登録の取消を成立させるためには、「海外旅行者」向けの宣伝活動のみならず、「日本国内旅行者」向けにも宣伝活動、自社PRを積極的に行い一定の知名度を有しておく必要があったと思われます。
「そんなことは、いわれなくても分かっています。」という方も多いと思います。4条1項15号は、著名商標の保護を図るものですし・・・。
しかし・・・著名商標とは?外国で著名であれば足りるのか?
それでは、より具体的に内容を明らかにしていきます。
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<解説>
商願2005-34613号の商標は、下記に表示のとおり、「ルネッサンスホテル創世」の文字を書して成り、指定役務を第43類「宿泊施設の提供」とする商標(以下、「本件商標」という。)です。
本件取消決定の内容は、判決文によれば、以下の通りです。すなわち、
「本件決定の内容は,別紙異議の決定のとおりである。
その理由の要点は,申立人が権利者である「RENAISSANCE」の欧文字から成る登録商標(登録番号:第3244113号,出願日:平成4年9月30日,登録日:平成9年1月31日,指定役務:第42類「宿泊施設の提供」ほか。以下「申立人商標1」という。甲1の1)及び「ルネッサンス」の片仮名文字を横書きして成る商標(登録番号:第4536730号,出願日:平成12年4月28日,登録日:平成14年1月18日,指定役務:第42類「宿泊施設の提供」。以下「申立人商標2」といい,申立人商標1及び申立人商標2を併せて「申立人商標」という。甲1の2)は,本件商標の登録査定時はもとより,登録出願時においても,「宿泊施設の提供」において,既に需要者,取引者に広く認識されていた著名性のあるものであったこと,本件商標と申立人商標とは,その類似性が極めて高いこと,指定役務が同一又は類似であること,役務の需要者において共通性を有するものであったことなどに照らし,本件商標をその役務に使用した場合,申立人又は申立人と経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのごとく,役務の出所について混同を生じるおそれがあるとし,本件商標は法4条1項15号に違反するとしたものである。」というものです。
本事例は、かかる取消決定に対して不服であるとして、取消決定の取消を請求した事件です。裁判所は、「1 引用商標及びその周知著名性の認定について」、及び「2 出所混同の判断について」を審理判断しています。
まず、「1 引用商標及びその周知著名性の認定について」について検討してみます。
まず、裁判所は、申立人等の使用に係る標章について検討しています。申立人等の使用に係る標章(以下「申立人商標3」という。)は、以下のようです。
結論から述べると、裁判所は、上記標章の「RENAISSANCE」の部分からも外観、称呼、観念等が生じていると認めています。
裁判所は、係る判断の基準として、最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決を引用しています。
すなわち、「簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものと認められない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである」(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決)という基準を挙げています。
丁度、商標の類似の判断基準で述べた、分離観察の手法です。裁判所は、この基準の当てはめを行って、本事例の場合について結論を出しています。
具体的には、判決文によれば、「これを本件についてみるに,上記ア(ウ)のとおり,申立人商標3は,R の文字をデザイン化した図形を上段に配し,「RENAISSANCE」の欧文字を中段に配し,「HOTELS & RESORTS」(ホテルにより,「SAPPORO HOTEL」,「NARUTO
RESORT」,「OKINAWA RESORT」等の場合もある。)の欧文字を下段に配した三段構成の結合から成るものであるところ,@1段目の図形部分と2段目及び3段目の文字部分とは視覚的にも分離して見て取られ,また,図形部分から特定の観念も生じ得ないものであること,A同文字部分のうち2段目の「RENAISSANCE」の文字は,大きく,かつ,ゴシック体風の太字をもって表示しされており,また,フランス語で「再生」を意味するとともに,14世紀から16世紀にイタリアを中心に西欧で興った古典古代の文化を復興しようとする歴史的・文化的諸運動を指す明確な意味を持つ語であること(甲13,14の1〜3),B3段目の「HOTELS & RESORTS」(ホテルにより,「SAPPORO HOTEL」,「NARUTO RESORT」,「OKINAWA RESORT」等の場合もある。)の文字は,「RENAISSANCE」の文字の下段に,同文字よりも小さく表示され,その上段の「RENAISSANCE」の語を,「ホテルとリゾート」又は「ホテルの所在地」等の意味合いで形容する語と見て取れることからすると,申立人商標3のうち「RENAISSANCE」の部分と他の部分とは,それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものではないから,申立人商標3から,「RENAISSANCE」の外観,称呼,観念等が生じていると認めることができる。」と結論付けています。
次に、申立人等の使用商標の周知著名性等の有無について検討しています。結論から述べると、裁判所は、申立人等の使用商標は、海外においては一定の知名度を有する事が認めれるが、日本国内において周知著名性を有していたとは認められないとしています。
その理由は、以下の通りです。すなわち、判決文によれば、
「キ小括
以上の事実及び前記(1)アの事実によれば,@本件商標の原出願日である平成16年9月29日及び登録査定日である平成17年12月26日の各時点ころにおいて,申立人は,米国内を中心に,世界約30か国において約130軒のホテルを経営しており,また,申立人が直接又は間接的に経営に関与する世界中の「ルネッサンスホテル」に宿泊した人数と売上高は,平成16年(2004年)が約859万人で約12億US
ドル,平成17年(2005年)が約995万人で約14億US ドルであり,また,そのうち日本人の数とその売上高は,平成16年(2004年)が約7万8000人で約1090万US
ドル,平成17年(2005年)が約8万3000人で約1220万US ドル等であって,平成16年及び平成17年における世界全体の「ルネッサンスホテル」チェーンの宿泊客中の日本人の割合は1%弱であったこと,A平成16年,17年時点において,申立人が営業にかかわる国内の「ルネッサンス」の名称を付したホテルは,その名称を付けた営業が,それぞれ,昭和62年10月からの東京都中央区所在の「ルネッサンス東京ホテル・銀座東武」(登録出願時である平成16年9月までで約17年間),平成3年9月からの札幌市所在の「ルネッサンスサッポロホテル」(同約13年間),平成5年7月からの沖縄県国頭郡恩納村所在の「ルネッサンスリゾートオキナワ」(同約11年間),平成6年1月からの徳島県鳴門市所在の「ルネッサンスリゾートナルト」(同約11年間)及び平成7年7月からの岐阜市所在の「ルネッサンス岐阜ホテル」(同約9年間)の5軒であったこと(なお,「ルネッサンス岐阜ホテル」は平成18年1月から,「ルネッサンス東京ホテル・銀座東武」は平成19年4月から,「ルネッサンス」の名を外し,これ以降,国内の申立人にかかわる「ルネッサンスホテル」は3軒となっている。),B平成16年,17年の時点までの海外への旅行情報誌において,特に主として米国におけるホテルの紹介中に,申立人が直接又は間接に経営にかかわる「ルネッサンスホテル」が紹介されていたこと,C平成17年に,いずれも北海道版の結婚等情報誌や宿泊等情報誌において,「ルネッサンスサッポロホテル」が紹介されていたこと,D平成16年,17年に,雑誌等において,「ルネッサンスリゾートナルト」や「ルネッサンスリゾートオキナワ」がリゾート用ホテルとして紹介されていたこと,E平成16年に,沖縄県の地元新聞において,「ルネッサンスリゾートオキナワ」がJTB
協定旅館ホテル連盟の2003年度サービス優秀旅館ホテルに選ばれた旨の報道がされたこと,F平成17年に,北海道の地元新聞社関連の出版物において,「ルネッサンスサッポロホテル」内のレストランの紹介記事が掲載されたことが認められる。
これによれば,平成16年,17年時点において,@申立人に係るホテルの「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」の標章は,海外旅行用の出版物を通じるなどして,我が国の海外旅行者においては,海外,殊に米国を中心として所在するホテルチェーンの名称として一定の知名度を有し,「宿泊施設の提供」において相当程度認識されていたと判断されるが,他方,A国内に所在する申立人が経営にかかわる「ルネッサンスホテル」については,その所在地が札幌市,東京都,岐阜市,徳島県鳴門市及び沖縄県国頭郡恩納村という全国に散在する5軒のみであったこと,我が国における「ルネッサンスホテル」の紹介も,海外旅行者向けの出版物等が中心であって,国内所在の「ルネッサンスホテル」に係る全国規模の出版物やウェブページでの紹介等もそれほど一般的で多いものであったとは認め難いこと,国内における申立人関与による「ルネッサンスホテル」の「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」という名を付しての営業期間が平成16年時点までで約17年から約9年というもので長い歴史を有するというほどのものではなかったことなどに照らすと,そもそも,国内に散在した上記5軒のホテルにつき,同一グループに関連するものであるとして広く理解されていたとは考えにくく,国内旅行者等において,「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」の標章が相当程度認識され,周知著名性を有していたと認めることはできない。」と結論付けています。
簡単に言えば、@全国に5軒(その後3軒)のみのホテルであること、A全国規模の出版物やウエブページでの紹介も多いとは認められないこと、B長い歴史を有するものでもないこと(17年から9年)、などの理由で、国内での周知著名性を認めませんでした。
逆に言えば、ウエブページでの紹介、全国規模の宣伝広告によって、周知著名となっていれば、今回と反対の結論となっていたかもしれません。これから読み取れる事は、日本企業であれば、海外へ進出する際に、商標の管理も重要になってくるということがいえます。
商品や、役務によって、宣伝広告等のアプローチが多少違うかもしれませんが、宣伝広告等によって、自社商標の管理を継続することの必要性が重要になっていることがお分かりだと思います。本事例は、海外においての宣伝広告活動は十分であったけれども、日本国内向けの宣伝広告活動等が十分ではなかったために、他人の登録を防止する事ができなかった事例です。
次に、出所混同の判断について検討しています。裁判所は、「ルネッサンスホテル創世」についても、上記最高裁の基準を当てはめて検討しています。
結論から述べると、「ルネッサンス」及び「創世」との称呼、観念が生じているとしています。
理由は、判決文によれば、
「2 出所混同の判断について
(1) 本件商標等
ア前記第2の2(1)アの表示のとおり,本件商標は,明朝体様の同一書体の文字で構成され,その画文字は,縦線又は横線の端部の一部をややはねて,同一大きさ,同一間隔で横一列に,片仮名と漢字をもって「ルネッサンスホテル創世」と表記するものである(甲10の1,2)。
ところで,「簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものと認められない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである」(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)。
これを本件につきみるに,本件商標は,「ルネッサンス」,「ホテル」,「創世」の三つの語の結合から成るものであるが,@「ルネッサンス」の文字は,フランス語のRenaissance
の直訳としては「再生」を意味するとともに,14世紀から16世紀にイタリアを中心に西欧で興った古典古代の文化を復興しようとする歴史的・文化的諸運動を指す意味を持つ語であること(甲13,14の1〜3),A「ホテル」の文字は,「旅館。特に,西洋風の宿泊施設。」の意味を有する語であること(広辞苑第5版),B「創世」の文字は,「はじめて世界をつくること。世界のできたはじめ。」の意味を有する語であること(広辞苑第5版)からすると,本件商標は,これらのいずれも一般に知られた三つの語を結合したものであると容易に理解することができるものであること,「ホテル」の語は役務を表す普通名詞で識別力がないといえることからすると,本件商標から,それぞれ,「ルネッサンス」及び「創世」との称呼,観念が生じていると解することができる。」というものです。
また、「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」標章の独創性については、自他識別機能、出所表示機能は弱いといわざるを得ないとしています。この理由についは後述の判決文で紹介されています。
続いて、商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標の判断基準として、最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決を挙げています。
すなわち、判決文によれば、
「ところで、「商標法4条1項15号にいう『他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標』には,当該商標をその指定商品又は指定役務(以下『指定商品等』という。)に使用したときに,当該商品等が他人の商品又は役務(以下『商品等』という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下『広義の混同を生ずるおそれ』という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。」「そして,『混同を生ずるおそれ』の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである。」(前記最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決)。」という基準を例示しています。
そして、この基準と本事例との当てはめを行っています。当てはめを行った結果、裁判所は、出所の混同を生じるおそれがある商標に該当しないとしています。
具体的には、判決文によれば、
「これを本件についてみるに,上記(1),(2)の事実等及び前記1の認定判断によれば,@本件商標から生ずる「ルネッサンス」との称呼,観念は,申立人商標「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」及び申立人商標3から生ずる「RENAISSANCE」と称呼,観念が同一であること,A本件商標の指定役務は「宿泊施設の提供」であるのに対し,申立人商標の指定役務は「宿泊施設の提供」等であり,また,申立人はホテル業者であって,その取引者,需要者に共通性があることが認められるが,他方,B我が国において,「RENAISSANCE」及び「ルネッサンス」の語は極めて一般的な語であり,類似の「ルネサンス」等も含め,法人名その他の固有名詞等において,単独又は他の語と組み合わせて多数使用されており,その自他識別機能,出所表示機能は弱いといわざるを得ないこと,C本件商標の登録出願時である平成16年及び登録査定時である平成17年時点において,申立人が経営にかかわる「ルネッサンスホテル」は全国に散在する5軒しかなく,我が国における「ルネッサンスホテル」の紹介も,海外旅行者向けの出版物等が中心であって,国内所在の「ルネッサンスホテル」に係る全国規模の出版物やウェブページでの紹介等もそれほど一般的で多いものであったとはいえず,国内所在の申立人関与による「ルネッサンスホテル」の「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」との名を付しての営業期間が平成16年時点までで約17年から約9年というもので長い歴史を有するというほどのものではなかったことなどに照らすと,そもそも,国内に散在した上記5軒のホテルにつき,同一グループに関連するものであるとして広く理解されていたとは考えにくく,国内旅行者等において,申立人が経営にかかわるホテルについての「RENAISSANCE」又は「ルネッサンス」の標章が相当程度認識されていたとまではいえない状況にあったものであること,以上の事情等が認められる。
そうすると,本件商標の登録出願時である平成16年9月29日及びその登録査定時である17年12月26日時点において,本件商標を「宿泊施設の提供」に使用することにより,その取引者,需要者である国内旅行者等において,原告の「宿泊施設の提供」という役務が,申立人の「宿泊施設の提供」等という役務と緊密な営業上の関係又は同一の表示による事業を営むグループに属する営業主の業務に係る役務であると誤信されるおそれ(広義の混同を生ずるおそれ)があったものということはできない。」と結論付けています。
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<まとめ・余談>
本事例では、分離観察の根拠となる最高裁判決や、出所混同の判断基準となる最高裁判決を紹介して、実際に当てはめをしています。判例が重要である根拠がここにあります。
さて、今回の事例で学べることは何でしょうか?
もちろん、分離観察のアプローチ、出所混同の判断基準のアプローチが学べます。他にはないでしょうか?
本事例の場合、対象の商標は、外国ではかなり著名なホテルチェーンによる商標のようです。商標は、商品又は役務の実際の使用により業務上の信用が化体して、ひいては、企業の信用をも蓄積されます。商標が周知著名になればなるほど、商標の財産的価値がアップして、その分保護も強化されていきます。宣伝広告費やその他の企業努力はコストが高くつきますが、その分、商標が周知著名になれば保護強化にもつながります。
商標登録後の商標の管理も重要であることが、本事例から理解できます。たとえば、日本企業の方が、海外へ進出する場合でも、日本で著名であれば、あるいは世界的に著名であれば、商標登録出願した国の商標管理は、さほど気にしなくても良いと考えるかもしれません。
しかしながら、日本の4条1項15号と類似する規定を有する国では、本事例から明らかなように、商標管理が十分ではないという事になります。すなわち、著名商標として保護を受けようとする場合には、相当の宣伝広告等をしている必要があることが分かります。
中国では、馳名商標(日本でいう著名商標)の取得が重要なステップの一つとされていますが、馳名商標の取得は、外国企業にとって非常に難しいようです。保護のアプローチも独特の、種々の角度からのアプローチも必要そうです。
いずれにしても、商標が適切に管理されないと、商標は普通名称化したり、商標の機能が希釈化されたりして、本来の商標の機能、すなわち、自他商品等の識別機能、出所表示機能、品質保証機能、宣伝広告機能、顧客吸引力等は、弱まっていきます。
機能が弱まれば、似たような商標の登録によって、自己の商品、又はサービスと他社の商品等との差別化が困難になってしまいます。商標の価値アップ、ひいては企業価値アップは、商標の管理、すなわち、自己の商標の管理と、自己の商標に類似、または出所の混同が生じそうな他社の商標の排斥が重要です。
4条1項10号が、商標等の類似範囲内における周知商標の保護する規定であるのに対して、4条1項15号は、商標等の類似範囲を超えた範囲において著名商標を保護する規定である点で、商標の管理に際しては、どちらも非常に重要な規定であり、これらの規定を通じて、自己の商標が守られたり、他社の商標を排斥する事ができたりします。
このような観点で、本事例のような内容を頭に入れておくことは重要な意義を有すると思われます。
ここで、商標審査基準を見て見ます。審査基準には、
「6.著名標章を引用して、商標登録出願を本号に該当するものとして拒絶することができる商標には、外国において著名な標章であることが商標登録出願の時に(第4条第3項参照)、我が国内の需要者によって認識されており(必ずしも最終消費者まで認識されていなくともよい。)、出願人がその出願に係る商標を使用した場合、その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものを含むものとする。」とあります。
本事例においては、「国内の需要者によって認識されていない」と判断されました。参考として、周知性の立証に当たって、提出する証拠書類として、下記が必要であること加えて終わりにしたいと思います。
【周知性を立証するための証拠書類】
(1)商標の使用状況に関する事実を量的に把握し、それによってその商標の需要者の認識の程度を推定し、その大小ないし高低等により識別力の有無を判断するものとする。
A 実際に使用している商標並びに商品又は役務
B 使用開始時期、使用期間、使用地域
C 生産、証明若しくは譲渡の数量又は営業の規模(店舗数、営業地域、 売上高等)
D 広告宣伝の方法、回数及び内容
E 一般紙、業界紙、雑誌又はインターネット等における記事掲載の回数及び内容
F 需要者の商標の認識度を調査したアンケートの結果
(2) 上記(1)の事実は、例えば、次のような証拠方法によるものとする。
A 広告宣伝が掲載された印刷物(新聞、雑誌、カタログ、ちらし等)
B 仕切伝票、納入伝票、注文伝票、請求書、領収書又は商業帳簿
C 商標が使用されていることを明示する写真
D 広告業者、放送業者、出版業者又は印刷業者の証明書
E 同業者、取引先、需要者等の証明書
F 公的機関等(国、地方公共団体、在日外国大使館、商工会議所等)の証明書
G 一般紙、業界紙、雑誌又はインターネット等の記事
H 需要者を対象とした商標の認識度調査(アンケート)の結果報告書
ただし、需要者の認識度調査(アンケート)は、実施者、実施方法、対象者等その客観性について十分に考慮するものとする。
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下記に、商標審査基準(9版)4条1項15号の部分を参考資料として掲載しておきます。なお、商標審査基準(9版)4条1項15号については、特許庁のホームページよりダウンロードできます。
特許庁審査基準
十三、第4条第1項第15号(商品又は役務の出所の混同)
他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第10号
から前号までに掲げるものを除く。)
1.本号において「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある場合」とは、その他人の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同するおそれがある場合のみならず、その他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品又は役務であると誤認し、その商品又は役務の需要者が商品又は役務の出所について混同するおそれがある場合をもいう。例えば、以下のような場合が挙げられる。
(1)事業者甲が自己の業務に係る商品Gに商標Mを使用し、これが全国的に周知になっている場合において、事業者乙が自己の業務に係る商品X(商品Gとは非類似でかつ、商品の生産者、販売者、取扱い系統、材料、用途等の関連性を有しないものであるとしても)に商標Mを使用したときに、その商品Xに接する需要者が、たとえ、甲の業務に係る商品であると認識しなくても、商品Xが甲の子会社等の関係にある事業者甲′の業務に係る商品であると誤認し(実際には存在しない甲′が出所として想定され)、商品の出所について混同する場合。
(注)上記 (1)については役務についても同様に考えるものとし、甲及び乙の業務が役務に係る場合においては、「商品」の文字については「役務」と読み替え、また「商品の生産者、販売者、取扱い系統、材料、用途等の関連性を有しないもの」とあるのは「役務の提供者、提供手段、目的、提供に関連する物品等との関連性を有しないもの」と読み替えるものとする。
(2)事業者甲が自己の業務に係る役務に商標Sを使用し、これが全国的に周知になっている場合において、事業者乙が自己の業務に係る商品(甲の業務に係る役務とは非類似)に商標Sを使用したときに、その商品に接する需要者が、その商品が甲の兼業に係る商品であると誤認し、商品の出所について混同を生ずる場合。
(注)上記 (2)については、甲の業務が商品に係るものであり、また乙の業務が役務に係るものである場合にも同様に考えるものとする。
2.「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるか否かの判断にあたっては、
(イ) その他人の標章の周知度(広告、宣伝等の程度又は普及度)
(ロ) その他人の標章が創造標章であるかどうか
(ハ) その他人の標章がハウスマークであるかどうか
(ニ) 企業における多角経営の可能性
(ホ) 商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
等を総合的に考慮するものとする。
なお、(イ)の判断に当たっては、周知度が必ずしも全国的であることを要しないものとする。
3.2.(イ)に関する立証方法については、この基準第2(第3条第2項)の3.(1)及び(2)を準用する。
4.他人の著名な商標を一部に有する商標については、次のとおり取り扱うこととする。
(1)それが他人の著名な登録商標と類似であって、当該商標登録に係る指定商品若しくは指定役務と同一又は類似の商品若しくは役務に使用すると認められる場合は、第4条第1項第11号の規定に該当するものとする。
(2)それが他人の著名な商標と類似しないと認められる場合又は他人の著名な商標と類似していても商品若しくは役務が互いに類似しないと認められる場合において、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるときは、原則として、本号の規定に該当するものとする。
(3)それが他人の著名な商標と類似していても、商品又は役務が互いに類似せず、かつ、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれもないと認められる場合において、不正の目的をもって使用をするものであるときは、第4条第1項第19号の規定に該当するものとする。
5.他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものなどを含め、原則として、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して、取り扱うものとする。
ただし、その他人の著名な商標の部分が既成の語の一部となっているもの、又は、指定商品若しくは指定役務との関係において出所の混同のおそれのないことが明白なものを除く。
(例)
@混同を生ずるおそれのある商標の例
被服について「arenoma / アレノマ」と「renoma」「レノマ」(カバン、バッグ等)
おもちゃについて「パー・ソニー」、「パー ソニー」又は「パーソニー」と「ソニー」(電気機械器具)
A混同を生ずるおそれのない商標の例
カメラについて「POLAROID」と「POLA」(化粧品)
6.著名標章を引用して、商標登録出願を本号に該当するものとして拒絶することができる商標には、外国において著名な標章であることが商標登録出願の時に(第4条第3項参照)、我が国内の需要者によって認識されており(必ずしも最終消費者まで認識されていなくともよい。)、出願人がその出願に係る商標を使用した場合、その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものを含むものとする。
7.他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあるかどうかの認定にあたっては、取引の実情等個々の実態を充分考慮するものとする。
8.建築物の形状を表示する立体商標であって、当該建築物の形状が当該出願前から他人の建築物に係るものとして我が国において広く認識されているものであるときは、本号の規定を適用するものとする。
9.著名性の認定に当たっては、この基準第3の八(第4条第1項第10号)の7.を準用する。
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