坂野国際特許事務所
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ホーム>特許(特許に関するご案内)>判例のご紹介(判例紹介)>3)訂正編|判例のご紹介(判例紹介)>事例2
事例2|3)−2訂正編
|判例のご紹介(判例紹介)
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事例2 ( 3)−2 平成21年(行ケ)第10157号) |
目次
<概要>
<結論>
<解説>
<まとめ・余談>
本サイトは、上記<概要>、 <結論>、 <解説>及び<まとめ・余談>で構成されています。項目をクリックすると当該説明の箇所へジャンプします。時間のない方は、概要、結論、まとめ・余談等を先に読まれると良いかもしれません。
より理解を深めたい方は、解説を参照すると良いかもしれません。更に理解を深めたい方は、実際に判決文と、特許明細書を入手して分析をする事をお勧めします。
<概要>
この事例は、特許異議申立てがなされ、特許取消決定され、その取消を求める訴訟係属中に、訂正審判請求されました。その後、訂正審判請求が、請求不成立の審決(第1次審決)がなされ、その後、その第1次審決の取消しを求める訴訟がされ、これを取消す判決(第1次判決)がなされ、再び特許庁で審理されることとなりましたが、訂正不可分等を理由として再び請求不成立の審決(第2次審決、又は本件審決)がなされたことから、本件審決の取消を求めた例です(平成21年(行ケ)第10157号)。
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<結論>
訂正審判の請求に対しては,請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ右複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは格別,これがされていない限り,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決をすることができる。
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本例において、特許庁と、裁判所との間で異なる判断がなされています。
特許庁では、訂正審判請求の訂正の判断の許否について、一体不可分性を主張している一方で、裁判所では、訂正審判請求の訂正の判断の許否について、原則が、一体不可分性であり、可分的取扱が許される場合の例外があるとして、本事例では、例外を採用して、可分的取り扱いを、すなわち、請求項毎の訂正の判断の許否を一定の条件下で認めています。
一定条件とは、「一部の個所についての訂正を求める趣旨を特に明示したとき」ということになります。
本事例では、この条件を具備し、請求項毎の訂正が認められる判決となっています。
それでは詳しく見てみましょう。
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<解説>
まず、経過については、上記概要に記載のとおり、まず、特許異議申立てがなされ、特許取消決定され、その取消を求める訴訟係属中に、訂正審判請求されました。その後、訂正審判請求が、請求不成立の審決(第1次審決)がなされ、その後、その第1次審決の取消しを求める訴訟がされ、これを取消す判決(第1次判決)がなされ、再び特許庁で審理されることとなりましたが、訂正不可分等を理由として再び請求不成立の審決(第2次審決、又は本件審決)がなされたtことから、本件審決の取消が求められました。
まず、第1次判決は、判決文によれば、「ところで,第1次判決は,前記のとおり,「原告からなされた平成18年9月13日付けの本件訂正審判請求(甲4)は,旧請求項1〜7を新請求項1〜7等に訂正しようとしたものであるところ,その後原告から平成19年1月15日付けでなされた上記訂正審判請求書の補正(甲7)の内容は新請求項3・5・7を削除しようとするものであり,同じく原告の平成19年1月15日付け意見書(甲6)にも新請求項1・2・4・6の訂正は認容し新請求項3・5・7の訂正は棄却するとの判断を示すべきであるとの記載もあることから,審判請求書の補正として適法かどうかはともかく,原告は,残部である新請求項1・2・4・6についての訂正を求める趣旨を特に明示したときに該当すると認めるのが相当である。本件における上記のような扱いは,原告が削除を求めた新請求項3・5・7は,その他の請求項とは異なる実施例(『本発明の異なる形態』,『実施例2』)に基づく一群の発明であり,発明の詳細な説明も他の請求項に関する記載とは截然と区別されており,仮に原告が上記手続補正書で削除を求めた部分を削除したとしても,残余の部分は訂正後の請求項1・2・4・6とその説明,実施例の記載として欠けるところがないことからも裏付けられるというべきである。そうすると,本件訂正に関しては,請求人(原告)が先願との関係でこれを除く意思を明示しかつ発明の内容として一体として把握でき判断することが可能な新請求項3・5・7に関する訂正事項と,新請求項1・2・4・6に係わるものとでは,少なくともこれを分けて判断すべきであったものであり,これをせず,原告が削除しようとした新請求項3・5・7についてだけ独立特許要件の有無を判断して,新請求項1・2・4・6について何らの判断を示さなかった審決の手続は誤りで,その誤りは審決の結論に影響を及ぼす違法なものというほかない。」(甲9,64頁下9行〜65頁15行)等とする」とするものであります。
非常に簡単に説明すれば、裁判所は、原告が新請求項1・2・4・6について訂正を求める趣旨を特に明示したのであるから、これら請求項についてしっかり判断してくださいというものです。
一方、第2次審決(本件審決)は、どうだったのでしょう?
第2次審決は、判決文によれば、「一方,本件審決(第2次審決)は,「以上のとおり,本件訂正請求は,複数の請求項について訂正を求めるものであり,訂正発明3,5及び7に係る発明は,訂正要件を満たさないものであり,訂正発明1,2,4及び6に係る発明は,訂正要件を満たすものである。ここで,平成20年7月10日言渡の最高裁判所判決(平成19年(行ヒ)318号)を参照するに,該判決では,『複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,複数の請求項に係る特許出願の手続と同様,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。』(判決5頁)と判示されていることから,訂正事項の一部にでも訂正要件を満たさない部分があれば,訂正審判請求は,一体として棄却されることとなる。これを本件訂正審判請求に当てはめてみると,本件訂正審判請求が一部訂正要件を満たす部分があるとしても,訂正審判請求は,その全体を一体不可分のものとして取り扱われなければならず,結局,一体として棄却すべきものである。」(33頁9行〜22行)等としたものである。」とするものです。
つまり、第1次判決が、請求項1・2・4・6項と請求項3・5・7項とを分けて判断してくださいとお願いしているのに対して(つまり、上記結論で述べている、可分的取り扱いをしてくださいということです。)、被告は、最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決(平成19年(行ヒ)第318号民集62巻7号1905頁,前述した「平成20年最高裁判決」)(事例1でも紹介)を引用して、請求項1〜7の全体を一体不可分のものとして取り扱うべきとして反論しています。
最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決を、形式的によむと、特許異議申立て等における訂正の請求については、可分的に取り扱われ(荒っぽく説明すれば、請求項毎に訂正の許否を判断する。)、訂正審判請求については、全体を一体不可分的に取り扱われる(つまり、一つの請求項でも訂正違反があれば、総て訂正を認めない考え方。)と読まれがちです。
裁判所は、最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決で引用されている、「最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決(昭和53年(行ツ)第27号・28号民集34巻3号431頁,前述の「昭和55年最高裁判決」」に着目しています。
最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決の内容は、判決文によれば、「一方,上記判決が引用する最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決(昭和53年(行ツ)第27号・28号民集34巻3号431頁,前述の「昭和55年最高裁判決」)は,実用新案権者のなした明細書の訂正審判請求の事案に関し,「…実用新案登録を受けることができる考案は,一個のまとまった技術思想であって,実用新案法39条の規定に基づき実用新案権者が請求人となってする訂正審判の請求は,実用新案登録出願の願書に添付した明細書又は図面(以下「原明細書等」という。)の記載を訂正審判請求書添付の訂正した明細書又は図面(以下「訂正明細書等」という。)の記載のとおりに訂正することについての審判を求めるものにほかならないから,右訂正が誤記の訂正のような形式的なものであるときは事の性質上別として,本件のように実用新案登録請求の範囲に実質的影響を及ぼすものであるときには,訂正明細書等の記載がたまたま原明細書等の記載を複数箇所にわたつて訂正するものであるとしても,これを一体不可分の一個の訂正事項として訂正審判の請求をしているものと解すべく,これを形式的にみて請求人において右複数箇所の訂正を各訂正箇所ごとの独立した複数の訂正事項として訂正審判の請求をしているものであると解するのは相当でない。それ故,このような訂正審判の請求に対しては,請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ右複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは格別,これがされていない限り,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決をすることができるだけであり,たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係にはないと認められ,かつ,右の一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のないことではないときであつても,その箇所についてのみ訂正を許す審決をすることはできないと解するのが相当である。」とするものであり,」となっています。
判決文はさらに、「確定判決たる第1次判決は,訂正審判請求において可分的取扱いが許されるとした「一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したとき」に該当するとしたものである。」としています。
つまり、冒頭の結論で述べたように、裁判所では、訂正審判請求の訂正の判断の許否について、原則が、一体不可分性であり(つまり、一つの請求項でも訂正に誤りがあれば、総て拒絶。)、可分的取扱が許される場合の例外があるとして、本事例では、例外を採用して、可分的取り扱いを、すなわち、請求項毎の訂正の判断の許否を一定の条件下で認めています。
一定条件とは、「一部の個所についての訂正を求める趣旨を特に明示したとき」ということになります。
訂正審判については、一体不可分の判断か、可分の判断か、微妙でしたが、事例1と同様に、可分の判断、すなわち、請求項毎に判断してもらえる可能性が残されていることがこの判決で明確にされました。
この事例でいえば、補正により請求項3・5・7項を削除し、請求項1・2・4・6項を残した時点で、裁判所は、「一部の個所についての訂正を求める趣旨を特に明示したとき」と判断して、請求項毎の訂正判断の許否を認めています。
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<まとめ・余談>
本事例において、結局、裁判所は、最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決の考えを引用して、本事例にあてはめる形で、結論を導いています。
最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決を斜め読みすると、訂正請求は、請求項ごとの訂正の許否が可で、訂正審判は、請求項毎の訂正の許否が不可ともとれます。しかしながら、原則と例外があり、訂正審判でも一定条件下で、請求項毎の訂正の許否を是認しています。非常に勉強になる判例であり、かつ、実務にも大いに役立ちます。
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