坂野国際特許事務所
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ホーム>特許(特許に関するご案内)>判例のご紹介(判例紹介)>3)訂正編|判例のご紹介(判例紹介)>事例1
事例1 ( 3)−1 平成19年(行ヒ)第318号) |
目次
<概要>
<結論>
<解説>
<まとめ・余談>
本サイトは、上記<概要>、 <結論>、 <解説>及び<まとめ・余談>で構成されています。項目をクリックすると当該説明の箇所へジャンプします。時間のない方は、概要、結論、まとめ・余談等を先に読まれると良いかもしれません。
より理解を深めたい方は、解説を参照すると良いかもしれません。更に理解を深めたい方は、実際に判決文と、特許明細書を入手して分析をする事をお勧めします。
<概要>
この事例は、特許異議申立てがなされ、これに対して特許権者が訂正請求したところ、請求は成り立たず特許取消決定された事件で、その後最高裁において、同取消決定の取消しを求めた例です(平成19年(行ヒ)第318号)。
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<結論>
特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合、特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については、訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり、一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として、他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないというべきである。 |
本例において、特許庁と、裁判所との間で異なる判断がなされています。
特許庁では、請求項2に係る訂正事項bが訂正要件に適合しないために、請求項1に係る訂正事項aについて何ら検討することなく、訂正事項aを含む訂正の全部を認めないと判断しました。
裁判所は異なる判断をしています。
どのように判断がなされたのでしょう。
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<解説>
まず、経過についてはどのようなのでしょうか。判決文によれば、
「(2) 平成15年12月26日,本件特許(請求項1〜4に係る特許)に対し特許異議の申立てがされ,特許庁に異議2003−73487号事件として係属したところ,同事件の係属中の平成17年12月7日,上告人は,平成15年法律第47号による改正前の特許法120条の4第2項(以下,同改正前の特許法の条文は,「特許法旧120条の4」などと表記する。)の規定に基づき,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の訂正を請求した(以下,この訂正を「本件訂正」という。)。本件訂正は,特許請求の範囲の請求項1を訂正する訂正事項a,同2を訂正する訂正事項b,同3を訂正する訂正事項c,同4を訂正する訂正事項dから成り,上告人は,訂正事項aは特許請求の範囲の減縮,同bは明りょうでない記載の釈明を目的とするものであると主張した。なお,訂正事項c,dは,上告人自身,単なる形式的な誤記の訂正であると主張しているものであり,その許否いかんが特許取消決定の帰すうに影響を及ぼすようなものではない。本件訂正前後の特許請求の範囲の請求項1,2の記載は,別紙のとおりである。」というものです。
別紙には、特許第344118号(以下、本件発明という。)の特許請求の範囲(請求項1及び2について、訂正前と訂正後)が紹介されています。
すなわち、
「(別紙)
1 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
【請求項1】それぞれが少なくとも2つの接続リードを有する複数の発光ダイオードランプ,アノードバスバー,カソードバスバー,および前記の発光ダイオードランプを前記のアノードバスバーと前記のカソードバスバーの間に機械的噛み合わせ接続によって機械的電気的に接続する手段を有する光源を提供するための発光ダイオードモジュール。
【請求項2】ほぼ平面状のアノードバスバー,前記のアノードバスバーに平行に隣接して配置されたほぼ平面状のカソードバスバー,複数の発光ダイオード,および前記の発光ダイオードを前記のアノードバスバーと前記のカソードバスバーに機械的電気的に接続する接続手段であって,それぞれが前記のバスバーの平面から変形して対応するリードと噛み合わせ嵌めによって係合する前記のバスバーの部分からなる接続手段からなる照明を提供するための発光ダイオードモジュール。
2 本件訂正後の特許請求の範囲の記載(訂正部分に下線を付す。)
【請求項1】それぞれが少なくとも2つの接続リードを有する複数の発光ダイオードランプ,アノードバスバー,カソードバスバー,および前記の発光ダイオードランプを前記のアノードバスバーと前記のカソードバスバーの間に機械的噛み合わせ接続によって機械的電気的に接続する手段とを有し,前記のバスバーが電気的接続を形成するとともに前記発光ダイオードランプのための機械的支持体を形成することを特徴とする光源を提供するための発光ダイオードモジュール。
【請求項2】ほぼ平面状のアノードバスバー,前記のアノードバスバーに平行に隣接して配置されたほぼ平面状のカソードバスバー,複数の発光ダイオード,および前記の発光ダイオードを前記のアノードバスバーと前記のカソードバスバーに機械的電気的に接続する接続手段であって,それぞれが前記のバスバーの平面から変形して対応するリードと機械的噛み合わせ接続によって係合する前記のバスバーの部分からなる接続手段からなり,前記のバスバーが電気的接続を形成するとともに前記発光ダイオードランプのための機械的支持体を形成することを特徴とする照明を提供するための発光ダイオードモジュール。」というものです。
これに対して、特許庁ではどのような理由で取消決定したのでしょうか。判決文によれば、
「(3) 特許庁は,平成18年2月22日,上記特許異議申立事件につき,本件訂正は認められないとした上,請求項1〜4に係る本件特許を取り消す旨の決定(以下「本件決定」という。)をした。本件決定の理由の要旨は,次のとおりである。
ア 訂正事項bは,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれをも目的とするものでなく,また,特許請求の範囲を実質上拡張するものであるから,特許法旧120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法126条1項ただし書又は2項の規定に適合しない。よって,その余の訂正事項について判断するまでもなく,訂正事項bを含む本件訂正は認められない。
イ 本件訂正前の特許請求の範囲の記載に従って特定される発明は,その特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」というものです。
そして、原審はどのように判断したのでしょう。判決文によれば、
「3 原審は,次のとおり判断して,本件決定の取消しを求める上告人の請求を棄却した。
本件決定は,訂正事項bが訂正の要件に適合しないことを理由に,他の訂正事項について判断することなく,本件訂正の全部を認めなかったものであるが,その判断に違法があるということはできない。すなわち,願書に添付した明細書又は図面の記載を複数箇所にわたって訂正することを求める訂正審判の請求又は訂正の請求において,その訂正が特許請求の範囲に実質的影響を及ぼすものである場合には,請求人において訂正(審判)請求書の訂正事項を補正する等して複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しない限り,複数の訂正箇所の全部につき一体として訂正を許すか許さないかの審決又は決定をしなければならず,たとえ客観的には複数の訂正箇所のうちの一部が他の部分と技術的にみて一体不可分の関係になく,かつ,一部の訂正を許すことが請求人にとって実益のあるときであっても,その箇所についてのみ訂正を許す審決又は決定をすることはできないと解するのが相当である(最高裁昭和53年(行ツ)第27号,第28号同55年5月1日第一小法廷判決・民集34巻3号431頁参照)。そして,この理は,いわゆる改善多項制(昭和62年法律第27号による改正後の特許法36条5項が定める請求項の記載方法)の下でも同様に妥当するというべきである。本件訂正に係る訂正請求書をみても,複数の訂正箇所のうち一部の箇所について訂正を求める趣旨を特定して明示しておらず,その訂正請求は一体不可分のものであったと解さざるを得ない。」としています。
原審では、一部訂正を認めないとする過去の最高裁判決を引用して、特許庁の取消決定と同じ結論となっています。今回、最高裁判所では、どのように判断されたのでしょう。
最高裁は、まず、訂正審判と、訂正請求との趣旨等の違いを説明しています。そして過去の最高裁判決のケースでは、複数の請求項を観念することができない実用新案登録請求の範囲中に複数の訂正事項が含まれていた訂正審判の請求に関する判断であるとして、今回のケースとは異にするとしています。
すなわち、特許請求の範囲の特定の請求項(1つ)につき複数の訂正事項を含む訂正請求がされている場合には、上記最高裁の判断を適用しても妥当であるが、本件のような複数の請求項のそれぞれにつき訂正事項が存在する訂正請求においては、適用するのは妥当でないとしています。
そして、冒頭の結論である、「特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないというべきである。」という判断基準を打ち出し、本件発明の場合に当てはめを行って、結果、特許庁、原審の判断を覆したものです。
具体的にどのような理由だったのでしょう。判決文によれば、
「4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである。一方で,特許法は,複数の請求項に係る特許ないし特許権の一体不可分の取扱いを貫徹することが不適当と考えられる一定の場合には,特に明文の規定をもって,請求項ごとに可分的な取扱いを認める旨の例外規定を置いており,特許法185条のみなし規定のほか,特許法旧113条柱書き後段が「二以上の請求項に係る特許については,請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。」と規定するのは,そのような例外規定の一つにほかならない(特許無効審判の請求について規定した特許法123条1項柱書き後段も同趣旨)。
(2) このような特許法の基本構造を前提として,訂正についての関係規定をみると,訂正審判に関しては,特許法旧113条柱書き後段,特許法123条1項柱書き後段に相当するような請求項ごとに可分的な取扱いを定める明文の規定が存しない上,訂正審判請求は一種の新規出願としての実質を有すること(特許法126条5項,128条参照)にも照らすと,複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,複数の請求項に係る特許出願の手続と同様,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。
これに対し,特許法旧120条の4第2項の規定に基づく訂正の請求(以下「訂正請求」という。)は,特許異議申立事件における付随的手続であり,独立した審判手続である訂正審判の請求とは,特許法上の位置付けを異にするものである。訂正請求の中でも,本件訂正のように特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とするものについては,いわゆる独立特許要件が要求されない(特許法旧120条の4第3項,旧126条4項)など,訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されており,訂正審判請求のように新規出願に準ずる実質を有するということはできない。そして,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる特許異議に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許異議事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになる。以上の諸点にかんがみると,特許異議の申立てについては,各請求項ごとに個別に特許異議の申立てをすることが許されており,各請求項ごとに特許取消しの当否が個別に判断されることに対応して,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるものと考えるのが合理的である。
被上告人は,発明を表現する明細書は常にその全体が一体不可分のものとして把握されるべきであると主張するが,昭和62年法律第27号による特許法の改正により,いわゆる一発明一出願の原則を定めていた規定が削除され,しかも一発明に複数の請求項の記載をすることが認められるようになったことを考えると,同改正後の特許法の下で,上記のように解すべき根拠を見いだすことはできない。前掲最高裁昭和55年5月1日第一小法廷判決は,いわゆる一部訂正を原則として否定したものであるが,複数の請求項を観念することができない実用新案登録請求の範囲中に複数の訂正事項が含まれていた訂正審判の請求に関する判断であり,その趣旨は,特許請求の範囲の特定の請求項につき複数の訂正事項を含む訂正請求がされている場合には妥当するものと解されるが,本件のように,複数の請求項のそれぞれにつき訂正事項が存在する訂正請求において,請求項ごとに訂正の許否を個別に判断すべきかどうかという場面にまでその趣旨が及ぶものではない。
(3) 以上の点からすると,特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないというべきである。
(4) これを本件についてみると,上告人は,訂正事項aは特許請求の範囲の減縮を目的とする旨主張して,これを含む本件訂正の請求をしているところ,訂正事項aは,特許異議の申立てがされている請求項1に係る訂正であるから,他の請求項に係る訂正事項とは可分のものとして,個別にその許否を判断すべきものである。ところが,本件決定は,請求項2に係る訂正事項bが訂正の要件に適合しないことのみを理由として,請求項1に係る訂正事項aについて何ら検討することなく,訂正事項aを含む本件訂正の全部を認めないと判断したものである。これを前提として本件訂正前の特許請求の範囲の記載に基づいて特許発明の認定をし,請求項1に係る部分を含む本件特許を取り消した本件決定には,取り消されるべき瑕疵があり,この瑕疵を看過した原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」としています。
特許異議申立てに対する防御手段として特許権者に訂正の請求が認められていますが、本事例においては、特許異議申立てに対する防御として請求項1を訂正したのに、当該訂正による訂正事項aについては全く検討されておりませんでした。こうなると、特許異議事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くということで、本事例におけるような結論となったのでしょう。
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<まとめ・余談>
本事例において、訂正審判と訂正の請求とにおいて、特許法上の位置づけを異にするとしております。今回の事例は、特許異議事件ですが、判例を待たなければなんともいえませんが、おそらく、無効審判に対する訂正の請求においても同様な結論となると思われます。攻撃防御の均衡という観点からです。もっとも、それ以前に適切な訂正の請求をすることが望まれるのですが・・・。訂正をする場合には、当該訂正をする材料が明細書中にないと訂正できないことになります。明細書を充実させておく必要性が訂正のときにも存在します。
なお、訂正審判請求における取扱は、事例2を参照。
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