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坂野国際特許事務所
代表: 弁理士 坂野博行
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ホーム>商標(商標に関するご案内)>判例のご紹介(判例紹介)>真正商品の並行輸入|判例のご紹介(判例紹介)>事例3真正商品の並行輸入|判例のご紹介(判例紹介)
事例3|真正商品の並行輸入
|判例のご紹介(判例紹介)
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目次
<概要>
<結論>
<解説>
<まとめ・余談>
本サイトは、上記<概要>、 <結論>、 <解説>及び<まとめ・余談>で構成されています。項目をクリックすると当該説明の箇所へジャンプします。時間のない方は、概要、結論、まとめ・余談等を先に読まれると良いかもしれません。
より理解を深めたい方は、解説を参照すると良いかもしれません。更に理解を深めたい方は、実際に判決文を入手して分析をする事をお勧めします。
<概要>
この例は、輸入された商品が真正商品であると判断され、その並行輸入が認められて、商標権、とりわけ専用使用権を侵害するものではないと判断された例です。(昭和43(ワ)第7003号)。
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<結論>
権利者が商標権侵害を理由に第三者の行為を差し止めるには、その行為が形式的に無権利者の行為であることのほか、実質的にも違法な行為であることが必要であり、真正商品の並行輸入の問題は、商標保護の本質にさかのぼって検討すべき。 |
本事例では、原告の行為は、真正商品の並行輸入に該当し、被告の有する専用使用権を侵害しないとされました。
判決では、商標法が商標権者に独占的権利を与えているのは、商標の機能である出所表示機能、品質保証機能などの商標の機能が阻害されるのを防止するにあると解されるとしています。
判決文は、商標の本幹に関わる重要なことを述べています。
すなわち、判決文は、「商標法は、商標の出所識別及び品質保証の各機能を保護することを通じて、当該商標の使用により築き上げられた商標権者のグツドウイルを保護すると共に、流通秩序を維持し、需要者をして商品の出所の同一性を識別し、購買にあたつて選択を誤ることなく、自己の欲する一定の品質の商品の入手を可能ならしめ、需要者の利益を保護しようとするものである。右にみたように、商標保護の直接の対象は、商標の機能であり、これを保護することによつて窮極的には商標権者の利益のみならず公共の利益をあわせて保護しようとするもので、この点において、商標権は他の工業所有権と比べて極めて社会性、公益性の強い権利であるということができる」としています。
判決は、商標の機能に対する侵害の有無の重要性を打ち出しています。
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<解説>
まず当事者を整理すると、原告は、日本国内において商標権、専用使用権等の権利を有しておらず、香港からパーカー製品を輸入しています。
被告は、我が国において商標権を取得しているパーカー社(我が国の商標権者)から専用使用権を許諾されている者です。
権利者(本事例の場合、専用使用権者)であれば、属地主義の原則(各国特許の独立の原則パリ条約4条の2)から、商標権者の権利は、何ら阻害されないことを根拠に、真正商品の並行輸入であっても、当該商標権の権利行使の妨げとはならないことを主張したいところです。
しかしながら、判決文によれば、属地主義の原則からの理論を退けて、商標保護の本質にさかのぼって、問題解決を図ろうとしています。
すなわち、判決文によれば、
「(二) 昭和四〇年条約第九号「工業所有権の保護に関する一八八三年三月二〇日のパリ条約」(以下単にパリ条約という)は、商標権についても、他の工業所有権と同様に属地主義、商標権独立の原則が支配することを認め、商標権は登録国ごとに互いに独占した存在であり、各別に譲渡または使用許諾ができることを一九三四年のロンドン改正において明らかにしている。
商標権の独立性あるいは属地性の原則とは、外国商標権は内国における行為によつて、また内国商標権は外国における行為によつてそれぞれ侵害されることなく、また内国商標権は同一権利者によつて外国に登録された商標権の存続に依存することなく独立である趣旨に解されている。しかし、パリ条約が一九三四年のロンドン改正において第六条丁(リスボン改正により第六条(3)となる)の規定を設けて商標権属地主義の原則を確立した当時には、その頃の国際取引の実情に照らし本件のような問題の生ずることは予測されていなかつたと考えられるし、同条約が特許権については同条約第四条の二2の規定を設け、各国における特許権が独立であることは厳格に解釈すべきものとしながら、商標権については同旨の規定を設けなかつたことからみても、商標権の属地主義の原則がいかなる限度まで適用されるべきであるかは、同条約及びわが国の商標法上しかく自明のものではなく、この問題の解決のためには、商標保護の本質にさかのぼつて検討する必要があると考えられるのである。
商標法は、その第一条において、「この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。」と規定している。商標は、ある特定の営業主体の営業にかかる商品を表彰し、その出所の同一性を識別する作用を営むと共に、同一商標の附された商品の品位及び性質の同等性を保証する作用を営むものであり、商標法が商標権者に登録商標使用の独占的権利を与えているのは、第三者のなす指定商品又は類似商品についての同一又は類似商標の使用により当該登録商標の営む出所表示作用及び品質保証作用が阻害されるのを防止するにあるものと解される。商標法は、商標の出所識別及び品質保証の各機能を保護することを通じて、当該商標の使用により築き上げられた商標権者のグツドウイルを保護すると共に、流通秩序を維持し、需要者をして商品の出所の同一性を識別し、購買にあたつて選択を誤ることなく、自己の欲する一定の品質の商品の入手を可能ならしめ、需要者の利益を保護しようとするものである。右にみたように、商標保護の直接の対象は、商標の機能であり、これを保護することによつて窮極的には商標権者の利益のみならず公共の利益をあわせて保護しようとするもので、この点において、商標権は他の工業所有権と比べて極めて社会性、公益性の強い権利であるということができるのであつて登録主義の建前のもとでは、商標権が基本的には私的財産権の性質を有するとしても、その保護範囲は必然的に社会的な制約を受けることを免れないのは勿論であり、商標権属地主義の妥当する範囲も、商標保護の精神に照らし商標の機能に対する侵害の有無を重視して合理的に決定しなければならない。」としています。
つまり、商標保護の直接の対象は、商標の機能、すなわち、自他商品識別機能、出所表示機能、品質保証機能、宣伝広告機能、グッドウィル等であり(とりわけ、出所表示機能と品質保証機能)、これを保護することによって、商標権者のみならず、消費者需要者の利益を保護しようとするもので、他の産業財産権と比較して、極めて社会性、公益性の強い権利でもあることを説明しています。
形式的に侵害に該当するかを判断するのではなく、商標の機能が害されているかを見るということです。
そして判決文は、本事例の問題を解決するための判断基準として、以下の基準を挙げています。
すなわち、判決文によれば、
「権利者が商標権侵害を理由に第三者の行為を差止めるには、その行為が形式的に無権利者の行為であることのほか、実質的にも違法な行為であることが必要であると解すべきである。同一人が世界的に著名な商標につき、外国及び内国に登録を得ている場合に、第三者がその登録商標を附した商品を輸入する行為が実質的にも違法な行為であるかどうかを判断するに当つて、その商標が世界的に著名な商標であること、右商品が外国において権利者により製造され正当に商標が附されて譲渡されたものであるかなど、外国における事実ないし行為をしんしやくすることは、なんら商標権独立の原則にもとるものではないと解せられる。」としています。
結論からすると、判決文によれば、「(四) 以上検討したところを綜合して考察すると、原告のなす真正パーカー製品の輸入販売の行為は商標制度の趣旨目的に違背するものとは解せられず、被告の内国市場の独占的支配が脅かされるとの一事はこれをもつて原告の輸入販売行為を禁止すべき商標法上の実質的理由とはなし難い。畢竟、原告は形式的には本件登録商標につきなんらの使用の権限を有しないものであるが、同人のなす本件真正パーカー製品の輸入販売の行為は、商標保護の本質に照らし実質的には違法性を欠き、権利侵害を構成しないものというべきである。」としています。
商標の機能が害されていないから、実質的には違法性を欠き、権利侵害を構成しないというものです。
理由の詳細は、判決文によれば、
「(三) そこで、原告による真正パーカー商品の輸入販売行為が本件登録商標の機能及び関係諸利益にいかなる影響を及ぼすものであるかを次に検討する。
現行商標法は商標権と営業とを不可分のものとせず、商標権につき専用使用権あるいは通常使用権の設定を認めているが、同一商標につき同一人が内国及び外国において商標権を有し、殊にその商標が本件「PARKER」商標のように世界的に著名な商標である場合には、商標権者が内国商標権につき専用使用権を設定するのは、殆んどの場合専用使用権者に対し外国において製造した商品の内国における一手販売権を与えるためのみの目的で行なわれるものであり、本件においてもその例外をなすものではないが、そのような場合には、当該著名商標によつて識別される商品の出所は、特別の事情のない限り右商品の生産源であつて、内国の販売源ではないと考えられる。
既に明らかにしたとおり、被告は米国から商標権者たるパーカー社において「PARKER」なる商標を附した製品を輸入し、これを国内で販売しているだけであり、日本において「PARKER」の商標を附した指定商品を製造しているものではないし、わが国においては相当以前から「PARKER」の商標を附した万年筆といえば、右商標は専らパーカー社の製造販売にかかる舶来品の標識として需要者に認識されていたことは公知の事実であり、証人【B】の証言によると、被告は昭和三九年頃から大々的にパーカー万年筆、パーカーインク等のパーカー社製品の輸入を開始し、現在年間七〜八〇〇〇万円の費用を投じて同社製品の広告宣伝を行なつていることが認められるけれども、右の事実のみによつては、「PARKER」商標が日本における特定の輸入販売業者から出た商品の標識であることが国内の需要者の意識に浸透しているものとは未だ認めるに足りない。
そうだとすれば、前述のように原告の輸入販売しようとするパーカー社の製品と被告の輸入販売するパーカー社の製品とは全く同一であつて、その間に品質上些かの差異もない以上、「PARKER」の商標の附された指定商品が原告によつて輸入販売されても、需要者に商品の出所品質について誤認混同を生ぜしめる危険は全く生じないのであつて、右商標の果す機能は少しも害されることがないというべきである。このように、右商標を附した商品に対する需要者の信頼が裏切られるおそれがないとすれば、少なくとも需要者の保護に欠けるところはないのみならず、商標権者たるパーカー社の業務上の信用その他営業上の利益も損なわれないことは自明であろう。また本件商標の如く世界的に著名な商標については、各国の需要者はその商標が内国の登録商標であるか外国のそれであるかを問題とせず、商標が製造元を表示する点を重視して当該商標の附された商品を購入するのが通常であり、被告が内国商標の専用使用権者として有する業務上の信用は、パーカー社が右商標の使用によつて築き上げたパーカー製品の世界市場における名声と表裏一体、不可分の関係にあつて、これとは別個の独立した存在であるとは解せられず、前顕検甲第一、二号証の各一ないし三、証人【B】の証言によつて窺われるつぎの事実、すなわち、パーカー社が、被告に対し商標専用使用権を設定した後においても、被告の日本においてなすパーカー製品の宣伝広告費用の六〇%を負担し、日本におけるパーカー製品の名声の保持に努め、且つ、米国及び香港において配布されている宣伝パンフレツトと言語、文字が異なるだけで文章の意味内容を同じくし、掲載写真、レイアウトその他の体裁はそつくりそのままの日本向け宣伝パンフレツトを米国において印刷したうえ、これを日本に送付して被告の手により配布させている事実は、被告の有する業務上の信用とパーカー社の有する業務上の信用とが一体不可分の関係にあることを裏付ける資料たるを失なわないのである。したがつて、原告のなす真正パーカー商品の輸入販売によつて、被告は内国市場の独占的支配を脅かされることはあつても、パーカー社の業務上の信用が損なわれることがない以上、被告の業務上の信用もまた損なわれないものというべく、むしろ、第三者による真正商品の輸入を認めるときは、国内における価格及びサービス等に関する公正な自由競争が生じ、需要者に利益がもたらせられることが考えられるほか、国際貿易が促進され、産業の発達が刺激されるという積極的利点があり、却つて商標法の目的にも適合する結果を生ずるのである。
なお、原告のなす輸入販売が公正なる競業秩序を紊すものでないかどうかについて検討する。被告は昭和三九年頃から大々的にパーカー製品の輸入販売を始めたのであるが、パーカー製品の名声は夙に相当以前から国内にあまねく知れわたつていたし、原告代表者【A】は既に昭和三七年頃からその主宰する株式会社阿木商会によつて香港からパーカー製品を輸入し国内で販売してきたもので、昭和四〇年八月同会社を解散して原告会社を設立し、原告会社によつて事実上阿木商会の業務を継承してパーカー製品の輸入販売を続行しているものであることは従来説示したとおりである。このような経過に照らすと、原告が被告によるパーカー製品の宣伝活動の成果に只乗りして、不正競争の意図をもつてパーカー製品の輸入販売を企図したものとは認め難く、また右輸入の手段方法についても格別不公正な廉があるとも認められない。」としています。
判決文の理由を簡単に説明すれば、まず、著名商標によつて識別される商品の出所は、特別の事情のない限り右商品の生産源であつて、内国の販売源ではないと考えられる、としています。
つまり、消費者は、日本において専用使用権を有する者ではなく、米国のパーカー社が出所源であると認識すると推定しています。
また、専用使用権者が、日本において、「PARKER]の商標を付した指定商品を製造しているものではないことを言及して、米国のパーカー社ではなく、日本における特定の輸入販売業者である専用使用権者から出た商品の標識であることが、日本国内の需要者の意識に浸透しているものと認められないとしています。
そして、専用使用権者が有する業務上の信用は、イコール、パーカー社の業務上の信用であり、両者の関係は、表裏一体、不可分の関係にあるとしています。
最終的に、原告によって真正商品が輸入販売されても、需要者に商品の出所品質について誤認混同を生じる危険は全く生じないのであり、結局、需要者の保護に欠けるところもなく、パーカー社の業務上の信用も営業上の利益も損なわれないとして、真正商品の並行輸入の抗弁を認めています。
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<まとめ・余談>
どの事例においても、同じことが言えますが、本事例の条件と同じ条件であれば、真正商品の並行輸入として認められる可能性は高いですが、条件設定がことなってくると多少違った結論となるかもしれません。
本事例の場合、原告は、日本国内において商標権、専用使用権等の権利を有しておらず、香港からパーカー製品を輸入しています。
被告は、我が国において商標権を取得しているパーカー社(我が国の商標権者)から専用使用権を許諾されている者です。では、
1.例えば、被告が、専用使用権者ではなく、商標権者であった場合はどうか?
2.被告が、さらに、商標の譲渡を受けていた場合はどうか?この場合、法主体が、外国と我が国で異なってきます。
3.被告が、日本において、商品を製造していた場合はどうか?
4.需要者の間で、被告の商品であると認識されるにいたった場合にはどうか?
これらに場合には、異なる結論となっていたかもしれません。判例を実務に生かすには、このような微妙に違う条件の場合には、どのようになることが想定されるのか常に考察しながら、実務に生かす必要がありそうです。
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