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坂野国際特許事務所
代表: 弁理士 坂野博行
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ホーム>特許(特許に関するご案内)>判例のご紹介(判例紹介)>2)新規性又は進歩性等の特許要件編|判例のご紹介(判例紹介)>事例2
事例2|2)新規性又は
進歩性等の特許要件編
|判例のご紹介(判例紹介)
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事例2 2)−2 平成20年(行ケ)第10096号 |
目次
<概要>
<結論>
<解説>
<まとめ・余談>
本サイトは、上記<概要>、 <結論>、 <解説>及び<まとめ・余談>で構成されています。項目をクリックすると当該説明の箇所へジャンプします。時間のない方は、概要、結論、まとめ・余談等を先に読まれると良いかもしれません。
より理解を深めたい方は、解説を参照すると良いかもしれません。更に理解を深めたい方は、実際に判決文と、特許明細書を入手して分析をする事をお勧めします。しかし、これには、膨大な時間がかかりますが・・・。
<概要>
この例は、特許法29条2項に定める要件についての、1つの判断基準を示しています。結果的に、特許性を肯定する判決となっているので、意見書や準備書面等で当該基準によるアプローチも有効かもしれません。(平成20年(行ケ)第10096号)。
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<結論>
特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,当業者が,先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。ところで,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。
さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。 |
本例において、いわゆる進歩性判断に際して適用可能な判断基準を示しています。審査官、審判官は、あたかも手品のしかけとたねをしって手品をみるように、、つまり問題と解答を同時にしって進歩性を判断するので、往々にして進歩性を有する発明を否定する傾向が少なからず存在しますが、これに一つ釘をさす判断基準といえます。
それでは、より具体的に内容を解説していきます。
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<解説>
出願当初の特許請求の範囲(以下本願発明。)は、以下の通りです。
「【請求項1】
1.下記(1)〜(3)の成分を必須とする接着剤組成物と,導電性粒子よりなる回路
用接続部材。
(1) ビススフェノールF型フェノキシ樹脂
(2) ビスフェノール型エポキシ樹脂
(3) 潜在性硬化剤。」
補正後の特許請求の範囲(以下本願補正発明。)は、以下の通りです。
「【請求項1】
下記(1)〜(3)の成分を必須とする接着剤組成物と,含有量が接着剤組成物1
00体積に対して,0.1〜10体積%である導電性粒子よりなる,形状がフ
ィルム状である回路用接続部材。
(1) ビスフェノールF型フェノキシ樹脂
(2) ビスフェノール型エポキシ樹脂
(3) 潜在性硬化剤」
判決文によれば、結論は、以下のようにです。
「第4 当裁判所の判断
当裁判所は,審決には,相違点の看過についての誤りがあるか否かにかかわらず,引用発明のフェノキシ樹脂について,相溶性,接着性がより一層良くなるように,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いてみようとすることは,当業者が容易に推考し得たことであるとした点には誤りがあると判断する。」としています。
当該裁判所の判断基準として、あげた基準が、上述の結論でも述べたような下記の基準です。
すなわち、「特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,当業者が,先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。ところで,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。
さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。」という基準です。
裁判所の検討結果を、下記に紹介します。
判決文によれば、「(2) 上記の観点に立って,審決の判断の当否について検討する。
ア前記1,(1)の本願明細書の記載,特に各実施例と比較例1との対比部分の記載に照らすならば,本願補正発明においてビスフェノールF型フェノキシ樹脂を必須成分として用いるとの構成を採用したのは,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いることに比べて,その接続信頼性(初期と500時間後のもの)及び補修性を向上させる課題を解決するためのものである。
一方,前記1,(2)の引用例には,「フェノキシ樹脂は・・・エポキシ樹脂と構造が似ていることから相溶性が良く,また接着性も良好な特徴を有する」(甲4の段落【0007】)と記載されており,格別,相溶性や接着性に問題があるとの記載はない上,回路用接続部材用の樹脂組成物を調製する際に検討すべき考慮要素としては耐熱性,絶縁性,剛性,粘度等々の他の要素も存在するのであるから,相溶性及び接着性の更なる向上のみに着目してビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることの示唆等がされていると認めることはできない。また,一般的に,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂が本願出願時において既に知られた樹脂であるとしても(乙2,3),それが回路用接続部材の接続信頼性や補修性を向上させることまで知られていたものと認めるに足りる証拠もない。
さらに,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂は,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂に比べてその耐熱性が低いという問題があること,すなわち,「JOURNAL
OF APPLIED POLYMER SCIENCE VOL.7,PP.2135-2144(1963)」(甲6)によれば,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(化学構造から,甲6の2138頁TABLE
IのPolymer No.2に該当する。)のガラス転移点は「8
0℃」であり,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(化学構造から,甲6の2139頁TABLE IIのPolymer no.3に該当する。)のガラス転移点は「100℃」であり,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂の耐熱性が低いものと認められる。上記のビスフェノールF型フェノキシ樹脂の性質に照らすと,良好な耐熱性が求められる回路用接続部材に用いるフェノキシ樹脂として,格別の問題点が指摘されていないビスフェノールA型フェノキシ樹脂(PKHA)(甲4の段落【0022】)に代えて,耐熱性が劣るビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが,当業者には容易であったとはいえない。
イ審決は,引用発明にビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが容易である根拠として,「引用例には・・・実施例として『PKHA(フェノキシ樹脂,分子量25000,ヒドロキシル基6%,ユニオンカーバイド株式会社商品名)』・・・を用いることも記載されている」点を挙げる(審決書5頁28行〜6頁4行)。しかし,審決が引用する「PKHA」(甲4の段落【0022】)は,特開平9−279121号公報において,「PKHA(ビスフェノールAより誘導されるフェノキシ樹脂・・ユニオンカーバイト株式会社製商品名・・・)」との記載があり(甲5の1の段落【0086】),また,米国特許第4343841号明細書においても,「これらの樹脂は,ユニオンカーバイド社からBakeliteフェノキシ樹脂・・PKHA・・として商業的に入手でき,そして,ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから得られる高分子量熱可塑性ポリマーと表現される。」(甲5の2第4欄44行〜48行。訳文)との記載がある。したがって,審決が引用する「PKHA」は,ビスフェノール「A型」のフェノキシ樹脂であり,ビスフェノール「F型」のフェノキシ樹脂ではないから,引用例の「PKHA」との記載は,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることに対する示唆にはなり得ない。」というものです。
簡単に判決の内容を分説してみます。
判決文によれば、「(2) 上記の観点に立って,審決の判断の当否について検討する。
ア前記1,(1)の本願明細書の記載,特に各実施例と比較例1との対比部分の記載に照らすならば,本願補正発明においてビスフェノールF型フェノキシ樹脂を必須成分として用いるとの構成を採用したのは,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いることに比べて,その接続信頼性(初期と500時間後のもの)及び補修性を向上させる課題を解決するためのものである。」とあるので、本願補正発明においてビスフェノールF型フェノキシ樹脂を使用していることがわかります。また、当該ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を使用した理由は、接続信頼性(初期と500時間後のもの)及び補修性を向上させるためであることがわかります。
判決文によれば、「
一方,前記1,(2)の引用例には,「フェノキシ樹脂は・・・エポキシ樹脂と構造が似ていることから相溶性が良く,また接着性も良好な特徴を有する」(甲4の段落【0007】)と記載されており,格別,相溶性や接着性に問題があるとの記載はない上,回路用接続部材用の樹脂組成物を調製する際に検討すべき考慮要素としては耐熱性,絶縁性,剛性,粘度等々の他の要素も存在するのであるから,相溶性及び接着性の更なる向上のみに着目してビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることの示唆等がされていると認めることはできない。また,一般的に,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂が本願出願時において既に知られた樹脂であるとしても(乙2,3),それが回路用接続部材の接続信頼性や補修性を向上させることまで知られていたものと認めるに足りる証拠もない。
さらに,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂は,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂に比べてその耐熱性が低いという問題があること,すなわち,「JOURNAL
OF APPLIED POLYMER SCIENCE VOL.7,PP.2135-2144(1963)」(甲6)によれば,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(化学構造から,甲6の2138頁TABLE
IのPolymer No.2に該当する。)のガラス転移点は「8
0℃」であり,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(化学構造から,甲6の2139頁TABLE IIのPolymer no.3に該当する。)のガラス転移点は「100℃」であり,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂の耐熱性が低いものと認められる。上記のビスフェノールF型フェノキシ樹脂の性質に照らすと,良好な耐熱性が求められる回路用接続部材に用いるフェノキシ樹脂として,格別の問題点が指摘されていないビスフェノールA型フェノキシ樹脂(PKHA)(甲4の段落【0022】)に代えて,耐熱性が劣るビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが,当業者には容易であったとはいえない。」として、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂と,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂との性質の違いを述べています。
続いて判決文は、「
イ審決は,引用発明にビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが容易である根拠として,「引用例には・・・実施例として『PKHA(フェノキシ樹脂,分子量25000,ヒドロキシル基6%,ユニオンカーバイド株式会社商品名)』・・・を用いることも記載されている」点を挙げる(審決書5頁28行〜6頁4行)。しかし,審決が引用する「PKHA」(甲4の段落【0022】)は,特開平9−279121号公報において,「PKHA(ビスフェノールAより誘導されるフェノキシ樹脂・・ユニオンカーバイト株式会社製商品名・・・)」との記載があり(甲5の1の段落【0086】),また,米国特許第4343841号明細書においても,「これらの樹脂は,ユニオンカーバイド社からBakeliteフェノキシ樹脂・・PKHA・・として商業的に入手でき,そして,ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから得られる高分子量熱可塑性ポリマーと表現される。」(甲5の2第4欄44行〜48行。訳文)との記載がある。したがって,審決が引用する「PKHA」は,ビスフェノール「A型」のフェノキシ樹脂であり,ビスフェノール「F型」のフェノキシ樹脂ではないから,引用例の「PKHA」との記載は,ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることに対する示唆にはなり得ない。」というものです。」として、結論づけています。
つまり、引用例に開示の「PKHA」は、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂ではなく、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂であるとしています。(この点、審決では、PKHAをビスフェノールF型フェノキシ樹脂と判断して、話を進めているか、大雑把に、フェノキシ樹脂の例として話を進めていた点を裁判所で指摘されて、逆転判決となっているようです。
構成が明らかに違うこと認識している上で審理されていれば、審決でも当然逆の結果になっていたかもしれません。
引用例の耐熱性向上目的のために、耐熱性に優れたビスフェノールA型フェノキシ樹脂を採用することはあっても、A型より耐熱性が劣るビスフェノールF型フェノキシ樹脂を採用することの動きつけにはつながらず、むしろ阻害要因になっているように思えます。
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<まとめ・余談>
冒頭でも述べましたが、審査官、審判官は、あたかも手品のしかけとたねを知って手品をみるように、、つまり問題と解答を同時に知って進歩性を判断するので、往々にして進歩性を有する発明を否定する傾向が少なからず存在します。これに一つ釘をさす判断基準といえます。
フェノキシ樹脂の開示があるから、拒絶、進歩性否定というのではなく、型について性質の違いや、発明の目的に照らして、当業者が本当に容易に想到し得るのか?この点を慎重に分析して結論づけている判決だと思われます。実務(意見書や準備書面等)においても、十分に参考になると思われます。
参照のために審査基準の一部抜粋を引用します。審査基準は、特許庁のホームページより入手可能です。疑義、争いが生じないように、きめ細かく修正されています。実務においても参考になるので、是非ご一読ください。
(特許庁審査基準の新規性、進歩性についてはこちら。
URL:http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/kijun/kijun2/tukujitu_kijun.htm)
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