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坂野国際特許事務所
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ホーム>特許(特許に関するご案内)>判例のご紹介(判例紹介)>2)新規性又は進歩性等の特許要件編|判例のご紹介(判例紹介)>事例1
事例1|2)新規性又は
進歩性等の特許要件編
|判例のご紹介(判例紹介)
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2008年6月判決の判例分析を行っているときに、以前に解析した本事例についての知的財産高等裁判所での判決がなされているのが分かりました。追って、知財高等裁判所の解説が出来ればと思います。
まずは、原審である本事例1の判例紹介をします。
目次
<概要>
<結論>
<解説>
<まとめ・余談>
本サイトは、上記<概要>、 <結論>、 <解説>及び<まとめ・余談>で構成されています。項目をクリックすると当該説明の箇所へジャンプします。時間のない方は、概要、結論、まとめ・余談等を先に読まれると良いかもしれません。
より理解を深めたい方は、解説を参照すると良いかもしれません。更に理解を深めたい方は、実際に判決文と、特許明細書を入手して分析をする事をお勧めします。しかし、これには、膨大な時間がかかりますが・・・。
<概要>
この例は、引用例1、3及び5記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項に違反し、無効審判において無効とされるべきものであるとされた例です。これも、進歩性の判断結果が、特許庁(特許庁では進歩性有り)と裁判所(裁判所では進歩性無し)とで異なった例といえるのですが、実際には、特許庁に係属している間に引用されていない引例による無効と思われるので、違う判断がなされたとはいえないかもしれません。(平成18年(ワ)第13040号)。
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<結論>
本件発明と引用発明との相違点が、数値限定のみの場合、原則として、数値範囲の最適化には進歩性がない。
例外として、異質な効果又は同質であるが際立って優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者に予測不可能な場合には、進歩性が肯定され得る。 |
本例において、数値限定(純度が99%以上)にのみ、相違点がありました。かかる場合の判断は非常に厳しいとの印象を受けます。
それでは、より具体的に内容を解説していきます。
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<解説>
特許第2729284号の請求項1記載の発明は、以下の通りです。
「【特許請求の範囲】
1.純度が99%以上の乳酸エチルを含む溶剤中に溶解した(a)少なくとも1種のアルカリ可溶性樹脂及び(b)オキソ−ジアゾナフタレンスルホニル又はカルボン酸のエステル又はポリエステルの少なくとも1種からなる光活性化合物を含むことを特徴とするフォトレジスト組成物。」
争いの無い事実として、下記の分説がされています。すなわち、
「A フォトレジスト組成物であって、
B1 その溶剤は乳酸エチルを含み、
B2 乳酸エチルの純度は99%以上であり、
C 当該溶剤には、以下の(a)及び(b)を含むもの
(a)少なくとも1種のアルカリ可溶性樹脂、
(b)オキソ−ジアゾナフタレンスルホニル又はカルボン酸のエステル又はポリエステルの少なくとも1種からなる光活性化合物」です。
本件発明と引用例1(特開昭62−123444号公報)との一致点及び相違点の認定について争いがないので紹介すると、判決文は、
「イ一致点及び相違点の認定
(ア) 一致点
上記ア(イ)〜(エ)によれば,引用例1には,構成要件A,B1 及びC からなるレジスト組成物が開示されるとともに,その組成物の保存中の粒子発生を防止する上で,乳酸エチルを含む溶剤(構成要件B1)を用いることが効果があることが開示されていたと解される。
(イ) 相違点
本件特許発明は,乳酸エチルの純度につき,「純度99%以上」と規定しているのに対し,引用例1に記載された発明はこの点を規定していない点で相違する。」としています。
すると、相違点は、「純度99%以上」と規定しているか否かの点のみのようです。
そして、引用例1中には、モノオキシモノカルボン酸エステル類の具体例として、2−オキシプロピオン酸エチル(乳酸エチル)が例示されています。
まず、判決文は、当業者の常識を述べています。それは、「,溶剤に関して,市販品には多くの場合不純物が含まれており,使用目的によっては障害となることがあること,純度の高いものを購入しても保存中に分解して不純物を発生するので,使用に先立って少なくとも水や使用目的に悪影響を及ぼす不純物を除去しなければならないことは,当業者の常識となっていたといえる。」としています。
根拠は、引用例3及び引用例5の記載からです。すなわち、引用例3には、「(ア) 引用例3浅原照三ら編「溶剤ハンドブック」(乙23。昭和59年5月10日第5刷,株式会社講談社発行。以下「引用例3」という。)には,以下の記載がある。
・市販されている溶媒には多種多様の原因で不純物が混入してくるので,使用する溶媒について熟知しなければならず,これを使用する際には,混入する不純物のうち少なくとも使用目的に合わないものを除去すべきこと(41頁左欄下から6行〜下から1行)。
・入手する溶媒の大部分が不純物を含有しており,混入されると予想される種々の不純物の測定法があること(同頁右欄8行〜16行)。
・一般の溶媒は種々の原因により不純物を含有しているところ,これらの不純物が溶媒の使用目的に悪影響を与えなければ,そのまま使用しても差し支えないが,少なくとも使用目的に支障を来す不純物を支障を来さない限度までに除去しなければならないこと(42頁左欄11行〜26行)。
・ 最も多く含まれている不純物は水であること(42頁左欄23行〜24行)。」、
また、引用例5には、
「(イ) 引用例5
右高正俊編著「LSI プロセス工学」(乙25。昭和57年10月25日第1版第1刷,株式会社オーム社発行。以下「引用例5」という。)には,以下の記載がある。
・IC を形成するパターン幅が狭くなると,ウェハ上に付着した0.1μm程度の小さなじんあいでも悪影響を及ぼすようになること(192頁)。
・「半導体のプロセスで使用している薬品の主なものは,無機薬品(フッ酸,硝酸,硫酸など,有機溶剤(メタノール) ,アセトン,トリクロルエチレンなど),ホトレジストおよび関連薬品である。これら薬品の純度は,特級,1級のほかに電子工業用というEL 級がある」こと(193頁下から3行〜最終行)。
・「薬品中の固形粒子数は,…空気中や超純水中のそれと比べてはるかに多い」こと(194頁5行〜7行)。
・「ホトレジストに異物が混入していると,塗布した際にその部分でピンホールが発生し,素子特性に致命的な欠陥をもたらす。ホトレジストには,薬品製造過程中に混入する異物に加え,ホトレジストの経時変化でできるゲル状の固形物が含まれることがあるので,塗布する直前に再度ホトレジストをろ過するのが望ましい」こと(194頁最終行〜195頁4行)。」が記載されています。
すなわち、溶剤には不純物が含まれるので、当該不純物を除去しなければならないことが当業者の常識となっていたとしています。そして、判決文は、「純度99%以上のものを用いた例も知られていたので、乳酸エチルを蒸留して純度99%以上にして使用する程度のことは、当業者ならば容易に想到することができた。〈当業者が当然に試行する精製の結果得られる当然の構成を規定したにすぎない。〉」としています。
審査基準はどうなのでしょうか。特に今回の事例の場合、相違点として残ったのは、「純度が99%以上」という数値限定の構成です。
審査基準は、以下のように記載されています。
「<数値限定を伴った発明における考え方>
発明を特定するための事項を、数値範囲により数量的に表現した、いわゆる数値限定の発明については、
(@)実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、通常はここに進歩性はないものと考えられる。しかし、
(A)請求項に係る発明が、限定された数値の範囲内で、刊行物に記載されていない有利な効果であって、刊行物に記載された発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測できたものでないときは、進歩性を有する。
なお、有利な効果の顕著性は、数値範囲内のすべての部分で満たされる必要がある。
例:本願発明が、その要件とする350度ないし1200度の反応温度の内、少なくとも350ないし500度付近までの反応条件については顕著な効果があるとは認められない。
(参考:昭54(行ケ)114)
さらに、いわゆる数値限定の臨界的意義について、次の点に留意する。
請求項に係る発明が引用発明の延長線上にあるとき、すなわち、両者の相違が数値限定の有無のみで、課題が共通する場合は、有利な効果について、その数値限定の内と外で量的に顕著な差異があることが要求される。
例:本願発明において「100メッシュないし14メッシュの範囲内にある粒度のものを90%以上含んでいる」とした点は、引用発明における望ましい粒度範囲50〜12メッシュのものと数値的に極めて近似し、作用効果において、格別の差がないから、引用発明に基づき粒度範囲を本願発明のように限定することが、当業者が格別の創意を要せずになし得る程度といえる場合、本願発明は引用発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明できたというべきである。
(参考:昭63(行ケ)107)
しかし、課題が異なり、有利な効果が異質である場合は、数値限定を除いて両者が同じ発明を特定するための事項を有していたとしても、数値限定に臨界的意義を要しない。
(参考:昭59(行ケ)180)」
原則は、やはり、数値範囲の最適化に通常は進歩性がない、としています。
そこで、やはり、例外を探していく事になります。すなわち、有利な効果の顕著性です。この有利な効果の顕著性とは、刊行物に記載されていない有利な効果であって、刊行物に記載された発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際立って優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測できたものでないものとしています。すなわち、単に異質なものや際立って優れているものではだめで、さらに、当業者が予測できないということも、つまり何重にも要件があります。
数値限定のみで特許性を主張する難しさが分かります。
今回の事例では、例外の有利な効果の顕著性を探しても見当たらず、原則どおり進歩性無しとしている点で、特に、特許庁側(審査基準)の判断と違っているとは思えませんでした。
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<まとめ・余談>
審査基準には、技術的意義、臨界点意義等がでてくるので、これらを本件発明について探してみました。外国からの出願ですので、法制度も異なり、おそらく記載されていないと思いましたが、やはり記載はなさそうです。技術的意義というのは、例えば、30〜80℃の温度で反応させる構成を採用した場合に、当該温度範囲についての説明として、「低温の方が平衡的に有利であるが反応速度が遅くなる。しかし高温すぎると、触媒寿命が短くなる」等をいいます。当該温度範囲としたことについて、上記のような技術的意義を有しているということです。
これに対して、臨界点意義とは、30℃よりも低いとどうなるのか、80℃より少しでも高いとどうなるのか、臨界での意義を言っているようです。
審査基準の、「しかし、課題が異なり、有利な効果が異質である場合は、数値限定を除いて両者が同じ発明を特定するための事項を有していたとしても、数値限定に臨界点意義を要しない。(参考:昭59(行ケ)180)」というのは、このような場合に、臨界点意義は必ずしも要しないとしているのです。(技術的意義は必要です。)
但し、これもあくまで例外規定であって、当該審決において、特許庁側は臨界点意義がないことを理由に進歩性を否定していた事から考えると、数値限定の場合に、技術的意義はもちろん、臨界点意義もデータがあれば、明細書に記載しておく事が好ましいように思えます。この点、いろいろな学者さん達が議論しているところであり、臨界点意義を書く必要が無い、必要があるなど、諸説があると思いますが(条件設定によりどちらが正しく、どちらが間違いともいえない議論です。)、安全を見越した場合に(つまりどちらに転んでも極力痛手を避けるなら)、やはり臨界点意義はデータがあるなら記載した方がよさそうです。
数値限定を構成要件に記載するときには、通常の構成を加える場合よりも注意点が異なる事がお分かりでしょうか?つまり、将来どうなるか分かりませんが、現行の審査基準を読む限り、原則は進歩性なしなのです。
参照のために審査基準の一部抜粋を引用します。審査基準は、特許庁のホームページより入手可能です。疑義、争いが生じないように、きめ細かく修正されています。実務においても参考になるので、是非ご一読ください。
(特許庁審査基準の新規性、進歩性についてはこちら。
URL:http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/kijun/kijun2/tukujitu_kijun.htm)
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