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               事例1|
  
    1)明細書記載要件、補正編

    |判例のご紹介(判例紹介)


事例1                            (1)−1 平成18年(ワ)第11880号)

目次
 <概要>
 <結論>
 <解説>
 <まとめ・余談>

 本サイトは、上記<概要>、 <結論>、 <解説>及び<まとめ・余談>で構成されています。項目をクリックすると当該説明の箇所へジャンプします。時間のない方は、概要、結論、まとめ・余談等を先に読まれると良いかもしれません。
 より理解を深めたい方は、解説を参照すると良いかもしれません。更に理解を深めたい方は、実際に判決文と、特許明細書を入手して分析をする事をお勧めします。しかし、これには、膨大な時間がかかりますが・・・。私がそうでしたので。



                                                  概 要

<概要> 
 本事例は、特許権侵害差止請求事件において、特許法第36条第6項2号に規定を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法123条第1項第4号に該当し、特許は取り消されるべきものであると認められた例です(平成18年(ワ)11880号)。

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                                                  結 論

<結論>
 請求項に記載された構成要素(本事例の場合には、「平均粒子径」。)が、複数通りにも読み取れる場合には、当該構成要素が一義的に特定されるように、明細書中において説明が必要である。

 例えば、本例でいえば、1)「平均粒子径」の定義を設ける、2)「平均粒子径の測定方法」を記載する、又は、3)「算出方法」を記載するなどが必要そうです。定義まで記載しなくても、複数通りに読み取れるものではなく、あるものに特定されるように記載、説明することが必要かと思われます。
 「そんなことは、いわれなくても分かっています。」という方も多いと思います。「平均粒子径」なんてよく使う言葉ですし、別に難解な語を用いているわけではありません。
しかし・・・
 それでは、より具体的に内容を明らかにしていきます。

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                                                  解 説

<解説>
 特許第3085182号の請求項1から6記載の発明は、以下の通りです。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、焼成し、複合化してなることを特徴とする遠赤外線放射体。
【請求項2】 セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、焼成し、複合化した後、粉体状に粉砕してなることを特徴とする遠赤外線放射体。
【請求項3】 セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる粉末と、陶磁器材料の粉末とを含む混合物を、所望の形状
に形成すると共に、焼成し、複合化してなることを特徴とする遠赤外線放射体。
【請求項4】 前記セラミックス遠赤外線放射材料は、白色系セラミックス遠赤外線放射材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の遠赤外線放射体。
【請求項5】 前記セラミックス遠赤外線放射材料は、有色系セラミックス遠赤外線放射材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の遠赤外線放射体。」

 その後、訂正審判が請求されて訂正審決により訂正後の請求項1記載の発明(本件発明)は、以下の通りです。

本件発明:
A セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と、
B 自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを
C 共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を、
D 焼成し、
E 複合化してなることを
F 特徴とする遠赤外線放射体。

 判決で問題となっているのは争点4、すなわち、「構成要件C「平均粒子径」に関する記載不備の無効理由の有無」ですので、以下ではこの点に焦点を絞って解説します。本事例においても、争点となっている「平均粒子径」を含む箇所が、補正により追加されているようです。当初から請求項に記載している構成要素は、通常しっかり記載して説明するのですが、「落とし穴」は、特許庁のやり取りの中で、出願後に補正で追加する構成要素のようです。
 判決で指摘された問題の構成要素は、「平均粒子径」の部分です。
 本事例も「一見して、えっこれがなぜ特許無効にされなければならないのでしょうか?」という事例、すなわち、総ての人が陥りやすい落とし穴的な事例です。

 判決は、まず、「平均粒子径」の一般的意義を紹介しています。通常、判決文は、明細書に定義規定が記載されていない場合には、極力明細書の記載表現をピックアップして、特許権者の言わんとするところを汲み取っているような気がします。しかし、本事例においては、明細書の解釈を行わず、先に意義を説明しております。
 判決によれば、平均粒子径の一般的意義は、以下のとおりです。非常に長いです。すなわち、
「2 学術文献上の「平均粒子径」の定義
(1) 「微粒子ハンドブック」・朝倉書店(乙A12)には,以下の記載がある。
ア「2.2.1 粒子径
粒子の大きさを表す場合,次の三つのものが重要となる。i)1個の粒子の大きさをどのように表すか〔代表径のとり方〕,ii)粒子の大きさに分布がある粒子群をどのように表すか〔粒度分布(→2.2.2)の表し方〕,および,iii)粒子群を代表する平均的な大きさをどのように選ぶか〔平均粒子径(→2.2.3)の選び方〕。
 1個の粒子(とくに非球形の粒子)の大きさを表すのに種々の表し方があり,それらを代表径という。表1は主な代表径を示したものである。代表径には大きく分けて,幾何学的な寸法から定まるものと,何らかの物理量と等価な球の直径におきかえた相当径の二つがある。(判決注・表1は「主な代表径とその意味」を示すものであり,幾何学的径として定方向径,マーチン径,ふるい径等が掲げられ,相当径として投影面積円相当径,等表面積球相当径,等体積球相当径,ストークス径,空気力学的径,流体抵抗相当径,光散乱径が挙げられている。)また,代表径は単に粒子径または粒径とよばれることが多いが,その場合にはどの代表径によるものであるのかをあらかじめ明示しておくことが必要である。…
 顕微鏡写真を撮ってそれから粒径を求める場合,定方向径がよく用いられる。これは,粒子が三次元的にランダムに配向しているものとして,表1中の図のように一定の方向に粒子の寸法を測ることで得られるものである。…
 ふるい径は相隣る目開きの間にふるい分けられた粒子径である。標準ふるいについてはJISで針金の直径および目開きが定められている。それによると網目の開きは,2 (Nは整数)の割合となっており,1mmの目開きを基準N/4にとると,N=0で1mm,N=1で1.19mm,N=2で1.41mm,…,N=10で5.66mmである。一方小さい方は,N=−1で0.84mm,…,N=−19で0.037mmである。
 …投影面積円相当径は,表1に示すように,粒子の投影面積と等しい面積をもつ円の直径である。粒子に平行光線を照射したときのさえぎり光量を検知して粒径を求める粒径測定法で得られる粒子径がこれに相当する。等表面積球相当径は,粒子の表面積と同じ表面積をもつ球の直径である。等体積球相当径は粒子の体積と等しい体積をもった球の直径であり,電気的検知帯法(→3.3.5.c)によって測定される粒子径はこれに相当する。
 …ストークス径は,…流体の粘度や粒子・流体密度が既知のときには,沈降速度vtを測定することから求められるし,またそれ以外の慣性法(→3.3.5.g)といわれる粒径測定法によってもこれが求められる。ストークス径は等沈降速度球相当径ともよぶことができる。
…流体抵抗力相当径は,ある粒子の流体から受けるストークスの流体抵抗力と等しい抵抗力をもった球形粒子の直径として定義される。拡散法(→3.3.5),モビリティアナライザー(→3.3.5.i),光子相関法(→3.3.5.b)などによって測定される粒子径はこれに相当する。
 …代表径は粒径測定法と密接に関係しており,多くの場合測定法がきまると代表径はきまる。」
イ「2.2.2 粒度分布
 ある粒子群の個々の粒子の大きさがある代表径(→2.2.1)で測定されたとする。測定された個々の粒子の大きさが不揃いである粒子群を多分散といい,非常に揃っている粒子群を単分散であるという。多分散粒子の特徴は,通常,頻度分布またはこれを積算した積算分布−これらを総称して粒度分布という− の形で表される。ある粒子群の粒度分布を表示する場合,代表径を明示しておくことと,粒子の量がどのような基準−個数,長さ,面積,体積(または質量)− で測定されたかを明確に区別しておくことが必要である。
これらによって粒度分布が異なるからである。」
ウ「2.2.3 平均粒子径
 ある代表径(→2.2.1)を用いて,ある基準で測定された粒度分布(→2.2.2)が与えられたとき,ある粒径区分dp±Δdp/2(ただし,Δdpは粒径区分の幅)内にある粒子群の個数,長さ,表面積,質量をそれぞれn,l,s,m…とし,…表1に示すような種々の平均粒子径が定義できる(判決注・表1は「各種平均粒子径とその定義式」を示すものであり,平均粒子径の種類として,個数平均径,長さ平均径,面積平均径,質量(または体積)平均径,平均面積径,平均体積径,調和平均径,個数中位径・幾何平均径,質量(または体積)中位径が掲げられるとともに,その定義式が掲げられている。)。…結果を図1に示した。この図から,平均粒子径はその定義のしかたによってずいぶん異なることが理解できるであろう。」
(2) 「粉粒体計測ハンドブック」・日刊工業新聞社(乙A13)には,以下の記載
がある。
ア「5・1・1 粒度の表現
(1)粒度分布
 粒度と粒子径はよく混同されるが,粒子径は個々の粒子を対象にしたときのそれぞれの大きさであり,粒度は粉体を構成している多数の粒子群を代表する粒子の大きさの概念である。現実の粒子は必ず大きさの分布をもつ多数の粒子群からなっているから,粒度の表現には分布を考慮しないわけにはいかない。…
 大きさという言葉には実は長さ,面積,重さの三つの次元が含まれている。それに個数というゼロ次元を加えた4種を考えると,試料中に含まれる粒子の中で粒子径区分DiとDi+1の間に属する粒子が,
@) 全粒子個数Σnの中の何個か?
A) 全粒子の径の総和ΣnDの中でどれだけの長さを占めるか?
B) 全粒子の表面積の総和ΣnD の中でどれだけの面積を占めるか?
C) 全粒子の重量の総和ΣnD の中でどれだけの重さを占めるか?
の四つの表現があることになる。…これらの関係を図5・2に示しておく(判決注・図5・2は「いろいろの基準量による粒度分布と平均粒子径」を示すものであり,個数基準,長さ基準,面積基準及び体積基準による基準量の関係が図示されている。)。…
 同じ試料でも,どの”大きさ”を基準にして粒度分布を表示するかによって”見掛けの粒度”は図5・1(a)のように当然異なってくる。…」
イ「5・1・2 粒度測定法
 現在,粉体の粒度測定に利用され,市販されているものを原理的に分類し,測定範囲,測定された粒度の意味などをまとめると表5・2のようになる(判決注・表5・2は「粒度測定法の分類」を示すものであり,「計数」,「ふるい」というような各原理ごとに種々の測定方法が記載されている。)。…
(1)計数法
 試料に含まれる個々の粒子の大きさを測定して分布を求める。きわめて微量の粒子の測定結果から多量の粉体の粒度を決める点に問題があり,測定試料の採取法と縮分法に十分注意しなければならない。また,粒度分布の広い試料では測定誤差が増すからあらかじめ何らかの方法で分級して,そのおのおのについて測定するほうがよい。
(2)ふるい分け法
 試料の粒度と測定の目的によって粒度の上限と下限を定め,その間を5〜6段に分けて,標準ふるいの目開きの大きいものから順に重ね,最上級に試料を入れて振とうし,各ふるい網上残量をひょう量して粒度分布を求める。…」
ウ「5・3 ふるい分け法
(1)標準ふるい
 粒度測定用ふるいとして規格化されているふるいは標準ふるいと呼ばれ,正方形網目が最も広く用いられている。JIS標準のふるいの規格を表5・4に示す。…」
(3) 「現場で役立つ粒子径計測技術」・日刊工業新聞社(乙A14)には以下の記載がある。
ア「1.2 粒子の大きさの決め方
 粒子の大きさを一つの数値で表すことは,結構難しいことである。図1.3では,理想的な粒子として球粒子と立方体粒子を,実在粒子の代表として石灰石を例にとった。球の大きさはと聞かれれば,直径で答えるし,立方体の大きさはと聞かれれば,たいていの人は一辺の長さで答える。では石灰石の大きさはと聞かれると,???となってしまう。石灰石は球や立方体と何が違うか,違いは2つある。1つは形の表現の問題である。「球」,「立方体」といえば,誰もが同じ形を思い浮かべる。形を正確に特定できるから,大きさを表す「直径」,「一辺」も正確に特定することができる。それに対して石灰石では,形を一言で表現することはできない。
 もう1つの違いは,形の相似性である。人間の形はおおむね相似であるため形を正確に表現できなくとも,身長や体重などで人間の大きさを代表することができる。人間の身長や胴回りのように,粒子の大きさを代表するものを代表粒子径と呼ぶ。しかし実在粒子は図1.1や図1.3の石灰石粒子のように,何となく共通する特徴は認められるものの,とても相似といえるような形ではない。したがって代表粒子径は幾何学的に定義されたり,粒子の大きさが関与する物理現象を利用して定義される。…
 幾何学的な代表粒子径の定義の例は,図1.4に示す粒子影像を平行線で挟んだフェレー(Feret)径や,図1.5に示すふるい目開きである。また図1.6に示す,粒子と同じ体積を持つ球の直径も代表径として良く定義される。体積の他に表面積や粒子の投影面積,周長が等しい球や円の直径も代表径としてはよく定義される。…
 このように代表粒子径は測定原理に対応して定義されるので,人間の大きさを身長で表した場合と肩幅で表した場合のように,原理的には代表粒子径が異なれば,同じ粒子でも異なる粒子径となる。」
イ「1.3.4 平均粒子径
 粒子径X1 ,X2 ,X3 ,…Xn の粒子がそれぞれn1 ,n2 ,n3 ,…nn 個,総計でN個あるとき,算術平均,幾何平均,調和平均の値はそれぞれ次式で与えられる。
算術平均;・・・(1.19)
幾何平均;・・・(1.20)
調和平均;・・・(1.21)
 粒子径Xi の質量をwi ,全質量をWとすると,質量基準の平均粒子径は,式(1.19)〜(1.21)のni /Nを質量wi /Wで置き換えて与えられる。
 粒子径Xの頻度分布関数qr(x)が与えられている場合,算術平均,幾何平均,調和平均の値はそれぞれ次式で与えられる。
算術平均;・・・(1.22)
幾何平均;・・・(1.23)
調和平均;・・・(1.24)
同じようにして,平均体積径,平均表面積径は次式で与えられる。
平均体積径;・・・(1.25)
平均表面積径;・・・(1.26)…」
(4) 「粘土ハンドブック第二版」・技報堂出版(乙A15)には,以下の記載がある。
ア「2.2.1 粒径及び分布の表示
a.粒径表示
(i)粒子の2次元平面への投影像
 光学顕微鏡や電子顕微鏡などで,平面に投影された粒子の尺度としては,定方向径,長軸径,二軸平均径,粒子に外接する円の直径などが用いられる。
(ii)ストークス径(沈降速度相当径)
 粒子の沈降速度と同じ速度で沈降する球の直径である。沈降法で得られる粒径がこの径に相当する。
(iii)表面積径
…」
イ「b.平均径の表示
 図2.1からわかるように,同一粉体でも表2.1に示す平均径の定義によってかなり差がある。図の実線は個数分布であり,メジアン径が個数分布における多数径であるモード径に最も近く,重量平均径が最も大きい径のところにある。実際にどのような平均径を用いるべきかについては一定のルールはない。しかし,粉体の関与する種々な現象と粉体の平均径との関連性を検討するうえで平均径の選択は重要である。フィラーとして使う粉体では複合材料の強度に粒径依存性があり,粒子と複合材料のマトリックスとの間の親和性は基本的特性の1つである。このような場合には表面積に関係する体面積平均径,平均面積径や表面積径などを用いるのが適当といえる。…」です。

 「平均粒子径」の一般的意義の紹介が非常に長かったので、一行あけます。つまり、「平均粒子径」の定義だけで、上の数ページすべてを割いてしまうぐらい多数の解釈があるということになります。
「平均粒子径」なんて粒子の平均の直径のことで簡単、かつ明確ですと潜在意識のなかで思い込んでいないでしょうか?私もこれほど「平均粒子径」の定義があるとは思っておらず、驚いております。こうなると「平均粒子径」の説明が明細書にないと致命的かもしれないと焦りを生じてきます。

 判決文は、更に以下のようにまとめています。すなわち、
「 (5) 学術文献上の「平均粒子径」の意義のまとめ
 上記学術文献上の記載によれば,1個の粒子の大きさ(粒子径,代表径)の表し方としては種々のものがあり,大きく幾何学的径と相当径(何らかの物理量と等価な球の直径に置き換えたもの)とがあり,幾何学的径には定方向径,マーチン径,ふるい径などがあり,相当径には投影面積円相当径,等表面積球相当径,等体積球相当径,ストークス径,空気力学的径,流体抵抗相当径,光散乱径など種々のものがある。平均粒子径とは,粒子群を代表する平均的な粒子径(代表径)を意味するものであるが,個数平均径,長さ平均径,面積平均径等といった種々の平均粒子径及びその定義式(算出方法)があり,同じ粒子であってもその代表径の算出方法によって異なるものである。したがって,本件発明の構成要件Cの「共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物」のように,抽象的に平均粒子径として特定の数値範囲を示すだけでは,それがいかなる算出方法によるものであるかが明らかにならないから,その範囲が具体的に特定できないことになる。
 他方,粒子径(代表径)は,測定原理に対応して定義されているように,粒径測定法と密接に関係していることが認められ,測定方法が決まれば代表径が定まるという関係にある。したがって,明細書中に,平均粒子径の定義(算出方法)を記載するか,又はその測定方法に関する記載があれば,特定の数値範囲に属する平均粒子径のものを示すものとして,その特定に欠けるところはないことになる。そこで,本件明細書の記載を検討する。」としています。

 つまり、本事例において、「明細書中に,平均粒子径の定義(算出方法)を記載するか,又はその測定方法に関する記載があれば,特定の数値範囲に属する平均粒子径のものを示すものとして,その特定に欠けるところはないことになる。」との判断基準を設けて、本件発明の明細書に対して当てはめの検証を行っています。
 検討の結果は以下のとおりです。すなわち、
「3 本件明細書の記載の検討
(1) 「平均粒子径」に関し,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の特許請求の範囲を引用するものや,数値範囲を示すだけのものを除き,次のとおりの記載がある。
ア【発明の実施の形態】
 以下,この遠赤外線放射体について詳細に説明する。
(遠赤外線放射体の製造)
遠赤外線放射体は,基本的には,これらの原材料を粉末として混合し,次いで焼成することによって焼結し,複合化することによって製造される。これによって,放射線源材料は均一に分散,分布されると共に,遠赤外線放射材料との粒子間が緻密化される。そのため,特に,遠赤外線放射材料と放射線源材料はできるだけ細かな粒子の微粉末とすることが好ましく,一般に,10μm以下の平均粒子径とすることが好ましい。より好ましいのは,0.5〜1μm程度の平均粒子径である。そして,それらの粒度が細かい程,自然放射性元素の放射性崩壊によるエネルギ線をより効果的に遠赤外線放射材料に吸収させるこ
とができる。段落【0024】,段落【0035】
 なお,これらの原材料の微粉末化と混合は,好適には,ボールミル等を使用して湿式混合粉砕することによって行うことができる。そしてこの場合には,得られた原材料粉末の湿式混合物を乾燥した後,焼成する。また,この原材料粉末の混合物の焼成は,その原材料の種類に応じて,それらの粒子が互いに焼結され或いは固熔される温度,一般には,700〜1500℃の温度に加熱することによって行うことができる。なお,この焼成は通常の酸化性雰囲気中で行うことができるが,原材料の種類によっては,例えば,酸化銅(Cu2 O)等の有色系の遠赤外線放射材料が使用される場合等には,酸素を遮断した弱還元性雰囲気中で或いは窒素ガスの雰囲気中で行うことが必要である。段落【0036】
イ【実施例】以下,本発明を実施例及び比較例によって更に具体的に説明する。
 これらの実施例の遠赤外線放射体の作製は具体的には次のように行った。即ち,磁器製ポットをボールミルとして用い,モナザイトを含む上記の配合の原材料に,略同量の水を添加し,湿式混合粉砕を24時間行った。次いで,これを取出して上水を切り,400℃の温度で乾燥させた後,200メッシュの篩を通した。そして,この原材料粉末の混合物を,電気炉で1200℃の温度に2時間保持して焼成し,複合化した後,これを再び試験用ミルで粉砕して実施例1乃至実施例3の粉体状の遠赤外線放射体を得た。段落【0044】,段落【0049】
 これらの実施例の各遠赤外線放射体の作製は,具体的には次のように行った。即ち,各種のセラミックス遠赤外線放射材料と,モナザイトと,更に陶石とを,上記の配合で磁製ポットに入れ,これに略等量の水を加えて湿式混合粉砕し,それらの原材料の粒子が平均粒子径において約1μm程度になるまで粉砕し,また混合した。そして,これを濾過して得た坏土を棒状に形成すると共に10mm程度に切断し,その切断塊を回転造粒機によって小球状に造粒した。次いで,この造粒物を天日乾燥した後,約200℃に加熱して焼成し,複合化した。その後,バレル研磨処理を適宜施して,径約8mmの小球状成形体からなる遠赤外線放射体を得た。段落【0065】」という部分です。

 続けて、判決文は、「本件明細書には,上記記載のほか,平均粒子径の定義(算出方法)やその測定方法に関する記載はない。このように,本件明細書には,「遠赤外線放射材料と放射線源材料はできるだけ細かな粒子の微粉末とすることが好ましく,一般に,10μm以下の平均粒子径とすることが好ましい。より好ましいのは,0.5〜1μm程度の平均粒子径である。」というように,抽象的に平均粒子径の数値範囲のみが示されているのみで,本件発明の構成要件Cにいう「平均粒子径」がいかなる算出方法によって算出されるものであるか明示の記載もその手掛りとなる記載もない。」旨言及しています。
 つまり、判決文は、この記載からでは、「平均粒子径」がいかなる算出方法によって算出されたのかわからない→したがって、特許請求の範囲が不明確ですといっています。
 
 続けて、判決文は、「また,本件明細書には,本件発明の実施例の遠赤外線放射体の作製
方法として,「磁器製ポットをボールミルとして用い,モナザイトを含む上記の配合の原材料に,略同量の水を添加し,湿式混合粉砕を24時間行った。次いで,これを取出して上水を切り,400℃の温度で乾燥させた後,200メッシュの篩を通した。」とか,「各種のセラミックス遠赤外線放射材料と,モナザイトと,更に陶石とを,上記の配合で磁製ポットに入れ,これに略等量の水を加えて湿式混合粉砕し,それらの原材料の粒子が平均粒子径において約1μm程度になるまで粉砕し,また混合した。」と記載されているのみで,本件発明の構成要件Cにいう「平均粒子径」の測定につき採用されるべき測定方法について明示の記載あるいは手掛りとなる記載もない。」旨言及しています。

 一見して、記載しているように見えるのですが、それは「平均粒子径」なんて明確であるという一種の固定観念があるからでしょうか?実際にはその測定方法について記載はありません。つまり、「どのようにして平均粒子径のものを得たのか」について記載がないのです。
 
 判決文は、「(3) そうすると,本件明細書の特許請求の範囲の記載中「共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物」(構成要件C)との記載は,それが具体的にどのような平均粒子径を有する粒子からなる混合物を指すかが不明であるというほかないから,特許法36条6項2号の明確性要件を満たしていないというべきである。」と結論づけています。

 マジックのような気もします。判決を読むと確かにその通り記載不備を言わざるを得ない。しかし「落とし穴」は、一見して明確簡潔と思われがちでも、当業者や、権利行使を受ける対象者の立場に立ってみると、不明確であることに気づき、このような不明確な権利に基づく権利行使は、行使を受けた者に不測の不利益を与えることになります。

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                                             まとめ・余談

<まとめ・余談>
 分析している他の事件についての不明確の事例もそうだったのですが、今回も補正により追加した構成要素に問題箇所が生じてきています。
 したがって、補正、訂正する際には、万一権利行使をしようとした場合を想定して、相手方がどのような主張をしてくるのか、相手の立場で当該補正は、明確なのか、明細書に明確になるように確認がとれているのかなどを検証する必要があります。
 前述のように、特許請求の範囲は、その記載が特許権の権利範囲を画するという非常に重要な意義を有します。その記載は明確であるべきです。土地などど同様に特許権は物件的権利です。土地の境界が不明確では困ってしまいます。
 補正・訂正時に注意を払うのはもちろんですが、やはり出願当初の明細書にもかかる事態、すなわち、クレームアップ(特許請求の範囲に構成要素を記載する)しそうな構成要素については、その定義や、測定方法、確認の仕方など、当業者に理解できるように記載しておくことが重要です。


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東京都27市:武蔵野市・三鷹市・西東京市・小金井市・国立市・国分寺市・立川市・調布市・府中市・八王子市・日野市・多摩市・狛江市・昭島市・東大和市・武蔵村山市・町田市・福生市・羽村市・あきる野市・青梅市・稲城市・東村山市・清瀬市・東久留米市等
東京都23区内:杉並区・練馬区・世田谷区・渋谷区・中野区・新宿区・豊島区・目黒区・港区・大田区・中央区・千代田区他

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